東洋刃物の10年(4完)先へ コロナ下、海外展開強化

黙とうのため集まった従業員に決意を語る清野社長(左端)=3月11日午後2時40分ごろ、多賀城市の東洋刃物多賀城事業所

悲しみ抱え前進

 東日本大震災から丸10年を迎えた3月11日。被災した東洋刃物多賀城事業所(宮城県多賀城市)の一角に、避難訓練を終えた従業員30人ほどが集まった。

 午後2時46分を前に、清野芳彰社長(70)が語り掛ける。

 「震災を体験した多くの人が心に傷を負い、大切な家族や友人や同僚を失い、当社も1人を亡くしました。震災前の気持ちには戻れませんが、悲しみを抱えながら前進していければいいと思います」

 2020年、新型コロナウイルス禍は多くのメーカーと同様に復興途上の東洋刃物(同県富谷市)も襲った。

 産業機械向けの刃物は納入先の工場が十分に稼働していないと需要が生まれない。春先の自動車メーカーの減産に加え、先行きの不透明さから設備投資の意欲も弱まり、鉄鋼、製紙パルプ、食品など幅広い取引業種の受注が減った。

 かつての「作ればいつか売れる」という姿勢を続けていれば、在庫が膨らみ、打撃はさらに大きくなっていたはずだ。

 震災後の業務改革によって、製造現場には納期から逆算する工程管理が浸透していた。加藤幸毅富谷工場製造第3課長(49)は「変化に柔軟に対応できる会社になってきた」と手応えを語る。

 今後は海外事業に本格的に乗り出す。19年に資本・業務提携したフェローテックホールディングス(HD、東京)が中国・杭州に持つグループ企業と協業し、製造拠点を設ける計画だ。アジア圏で需要の大きい情報産業用刃物の現地生産に向けて準備を進めている。

EV市場を狙う

 狙うのは拡大が確実視されるEV(電気自動車)市場。高い精度が要求されるリチウムイオン電池の切削加工向けに、自社の技術を生かす。富谷、多賀城でも情報産業向けを中核に据えてウエートを高める。

 売上高のうち海外取引の割合は、現状1割ほどにとどまる。新型コロナの影響は徐々に小さくなっているが、21年3月期の経常利益は7年ぶりに1億円を割り込む見通し。近く取りまとめる中期経営計画で、海外展開の強化も含めた復活への道筋を示す方針だ。

 清野社長は「製造業を取り巻く環境は目まぐるしく変わるが、一つ一つ乗り越える。従業員の力を結集したい」と力を込める。渡辺豊富谷工場長代理(45)も「新たな『東洋刃物スタイル』を確立できれば、本当の復興につながる」と先を見据える。

 3月11日、多賀城事業所。清野社長は黙とうを前に、真剣に聞き入る従業員を見据えて付け加えた。

 「まだまだ復興の最中ですが、復興の後に大事なのは未来へと存続していくこと。今日の思いをつなぎ、やるべきことをやると肝に銘じて、お互い頑張っていきましょう」

 1925年の創業からもうすぐ100年。さらに先へ。東洋刃物の道のりはこれからも続く。(報道部・高橋一樹)

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