暴力と恐怖の本質を考察 宮城の賀井さん、読書体験記で最高賞に

友人が描いた賀井さんの似顔絵

 昨年の第40回全国高校生読書体験記コンクール(一ツ橋文芸教育振興会主催)で、宮城県北の高校に通う3年の賀井暁月(かい・あかつき)さん(17)=筆名=の作品「世界にゆさぶりをかけるもの」が最高賞の文部科学大臣賞を受けた。1920~30年代に活動した米国人作家、H・P・ラヴクラフトのホラー小説に魅了される理由を、自身の過酷な家庭環境と対比して考察した異色の内容。負の連鎖を断ちきり、未来を切り開く意志を明快につづった。

 「私の家庭には、暴力があった」。プライバシーに関わるため、筆名で応募した体験記はこの一文で始まる。夏休み、家にいたたまれず図書館に出掛けた。好きなゲームの原作で知ったラヴクラフトの全集を開き、そこで繰り広げられる「クトゥルフ神話」の絶対的な恐怖に夢中になった。
 ラヴクラフト作品と出合い、賀井さんは自らをさいなんできた暴力の恐怖について考えた。それは肉体的なものであれ精神的なものであれ「想像の範囲にとどまるから予測でき、対処できる」。さらに「常に一方的。暴力を与える者の感情が全てを支配するため、他者が介在する余地がない。だから醜い」と断じた。
 他方、ラヴクラフト作品がもたらす恐怖は、読者が主体的にそこに身を投じることが求められる。未知への誘惑がある。人知を超えた存在を想像力で思い描き、自分と物語が双方向的な関係を成す。
 暴力と恐怖の本質を見詰める賀井さんは、ラヴクラフトによって自身の世界が揺さぶられることに気付く。本当は母に振り向いてほしいという声に出せない欲求。それがかなえられないと分かって絶望するのではなく、別の欲求に形を変えていることも。「自分の言葉を紡ぎ、言葉を通して、他者と関わりたい。なぜなら、その過程で美しいものに出会えると、確信しているからだ」。読書を通じてたどり着いた境地だ。

 コンクールには全国440校から約7万6000編が寄せられた。選考委員の作家角田光代さんは「読み、考え、書く過程で、現実と闘い、自身の世界を獲得していくという巨大な体験が、ここには描かれている」と称賛。歌人の穂村弘さんも選評に「読書体験、さらには文学というものの根源に迫るような凄(すご)みを感じた」と記した。
 最高賞の受賞に賀井さんは「私の文章が人に響いたんだと驚いた。学校の先生が大興奮していてうれしかった」と喜ぶ。読み手としては多読タイプではなく「不思議な世界観を持ち、解釈の余地がある話を何度も繰り返し読むのが好き」という。
 1年ほど前から、担任の先生の助言で家族の元を離れ、里親と暮らしている。体験記に取り組んだ当時を振り返り、「家を出て落ち着き、いろいろ思い出しながら『こういうことだったのかな』と自己分析できた」と話す。今後の進路については「まだ具体的には決めていない」そうだ。

[H・P・ラヴクラフト]1890~1937年。米国の怪奇・幻想作家。同時代の作家仲間らと共に「クトゥルフ神話」と呼ばれる架空の神話体系を生み出した。「クトゥルフ」は現在もゲームや映画、ライトノベル、漫画などの題材となり、人気を博している。

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