社説(7/28):防衛白書「台湾」明記/平和への知恵が問われる

 急速に軍事力を増強し、海洋進出の動きを強める中国にどう向き合うべきか。

 緊張から危機へと向かうシナリオは示された。大切なのは、必ずしも力に対抗する力だけではあるまい。広い視野から緊張緩和の糸口を探り、「有事」を未然に防ぐ平和への知恵が問われている。

 2021年版防衛白書が閣議で報告された。米中対立の激化や台湾情勢に触れながら「真に実効的な防衛力」の構築を訴える内容で、本年度まで9年連続の増加となった防衛費については「(主要国で)国内総生産(GDP)比は最も低い」と強調した。

 中国は透明性を欠いたまま国防費を過去30年で約42倍に増強しており、昨年に続いて「安全保障上の強い懸念」と位置付けた。沖縄県・尖閣諸島周辺で相次ぐ海警局船による領海侵入に対しては、初めて「国際法違反」との表現を使って非難した。

 台湾情勢に関しては4月の日米首脳共同声明を踏襲し、「日本の安全保障や国際社会の安定にとって重要」と初めて明記。中国が台湾周辺での軍事活動を活発化させる一方、バイデン米政権が台湾支援を鮮明にしていることから「台湾を巡る米中間の対立は一層顕在化していく可能性がある」と説明した。

 防衛省が今回、日本の安全保障環境の厳しさ、複雑さを強く打ち出した背景には、国民の防衛意識を高め、日米防衛協力強化への環境整備を図りたい思惑もありそうだ。

 年内には今後の協力の在り方を協議する日米安全保障協議委員会(2プラス2)の開催が見込まれている。

 政府・与党内では、台湾周辺で偶発的な衝突が発生すれば、尖閣諸島を含む南西諸島が戦域になるとして、対中強硬論が強まっている。

 麻生太郎副総理兼財務相は今月初め、講演で中国が台湾に侵攻した場合に言及。集団的自衛権の行使を可能とする安全保障関連法の「存立危機事態」として、「日米で台湾を防衛しなければならない」と語った上で「次は沖縄」が狙われるなどと述べた。

 さらに最近では、台湾に好意的な世論を背景に「民主主義国家としての台湾」(中山泰秀防衛副大臣)と断じる発言まで飛び出している。

 不用意に危機感をあおる姿勢は、いたずらに中国を刺激するだけではない。1972年の日中共同声明で、中華人民共和国政府を「中国の唯一の合法政府」と認めた日本の基本的立場に矛盾し、国際社会の信頼を損ないかねない。

 今回の白書は、武力攻撃に至らない「グレーゾーン」事態が長期化する傾向にあるとして、重大な事態へと急速に発展するリスクを訴えた。

 グレーが容易に白に変わらぬ以上、グレーをグレーのままにとどめ続ける忍耐と対処能力が重要になろう。「台湾有事」を軽々に語る政治家にも厳に自重を求めたい。

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