社説(8/12):日銀の脱炭素資金制度/自制的な運用を求めたい

 気候変動対策に取り組む企業への投融資を促進するため、日銀が民間金融機関への新たな資金供給制度の導入を決めた。欧州の中央銀行が相次いで脱炭素化への積極的な関与を打ち出す中、日銀としても世界的な潮流への対応を迫られた形だ。

 地球温暖化対策は、産業界も避けて通れぬ課題となった。温室効果ガスの排出を減らせば、生産性の低下が避けられない企業は少なくない。「マクロ経済が不安定な状況になるリスク」(黒田東彦総裁)を低減させたいという日銀の狙いは理解できる。

 ただ、中銀の使命は物価と金融システムの安定に他ならない。特定の分野・業種への資金の流れを方向付けるのは政策金融の役割だ。

 時代の要請とはいえ、新制度の運用次第では、中銀に本来求められる独立性や中立性を損なう可能性があることに十分注意したい。

 新制度による資金供給は年内に開始し、2030年度までを予定している。脱炭素に取り組む企業向け資金として銀行などの金融機関に金利ゼロで貸し付けるのが特徴だ。期間は原則1年だが、無制限の借り換えを可能とした。

 併せて金融機関が日銀に預けている当座預金にかかるマイナス金利の対象部分を、新制度の借り入れに応じて減らすなどの優遇策を講じた。

 気掛かりなのは、本来なら政府が財政投融資や税制で対応すべき役割を、日銀が肩代わりすることにならないかという点だ。日銀は既に上場投資信託(ETF)や国債を大量に購入しており、経済財政政策への過剰な関与が指摘されている。

 菅義偉首相は政権発足と同時に「50年までの温室効果ガス排出実質ゼロ」を表明し、4月には「30年度の排出量を13年度比で46%削減」すると国際公約した。日銀による企業活動の脱炭素化へのてこ入れにも、政権との協調姿勢を示す意図が感じられる。

 気候変動問題への対応について、日銀はこれまで「基本的に政府の役割」として距離を置いてきた。慎重な姿勢を転換させた一因は、この問題への取り組みで先行する欧州の動向にもありそうだ。

 英イングランド銀行は3月、金融政策の使命に「温室効果ガス排出量の実質ゼロへの移行」を追加。欧州中央銀行(ECB)も金融政策の一環として、この問題に積極的に関わる姿勢を明確にしている。

 だが、対象となる投融資が実際に脱炭素化に寄与するかどうかについて、判断基準は確立されていない。中銀が事実上、選別役となる欧州とは異なり、日銀は具体的な判断を銀行などに委ね、後方支援に徹するという。

 「中立性」確保のための苦肉の策だが、効果の疑わしい投融資まで対象にならぬよう、金融機関や投融資先企業に適切な情報開示を求めていくことも重要だ。

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