<手腕点検>加美町・猪股洋文町長 発想力で新施策実現

 東日本大震災から10年がたった今年、地方自治の現場は新型コロナウイルス感染症との闘いに引き続き追われた。少子高齢化や人口減少、地域経済の疲弊も深刻化。難局のかじ取りを担う宮城県の市町村長は地域の負託に応えているか。住民や関係者の声を交えて検証する。

インターンシップで大学生らと記念撮影する猪股町長(右)=8月16日、加美町役場

 「西の神山、東の加美町と呼ばれる日を目指そう」。猪股洋文町長(69)は、サテライトオフィス誘致で地域活性化に成功した徳島県神山町を例に新施策を宣伝する。

 新たな一手となるのが、6月に公表した地方創生テレワーク推進計画。サテライトオフィス誘致事業に地域課題の空き家対策も盛り込み、お試し移住施設や古民家アトリエを設け、クリエーティブな若者の呼び込みを目指す。民間4社と連携して事業化に取り組む。

 視察や首長との勉強会で情報を集め、施策を次々打ち出す。「現状維持は衰退。中長期的な視点で活動を」と職員を激励する。

 誘致し、2017年に開業した音楽教育施設「国立(くにたち)音楽院宮城キャンパス」には県内外の61人が学ぶ。町の試算では、地域おこし協力隊受け入れなどの移住促進策と合わせ、20年度末までに244人が移住した。

 一方で、議会とは緊張関係が続く。町は9月、懸案だった東京電力福島第1原発事故で発生した汚染牧草のすき込み処理に着手した。しかし、議会特別委では、住民説明会で反対があるのに強行したとして「十分な住民合意を得た上での着工を求めていたはず」との批判が相次いだ。町は処理事業を中断し、説明会を再度開くことになった。

 「どんどん施策を繰り出すが、町民にも議会にも説明不足。何度も同じことが繰り返されている」と早坂忠幸町議会議長(70)は苦言を呈する。

 町は03年に中新田、小野田、宮崎の旧3町が合併して誕生した。懸案となるのが中新田での新庁舎建設。前町長は10年に国道347号と国道457号が交差する矢越地区を建設地とすることを条例で定めた。猪股氏は現庁舎隣の西田地区での建設を訴え、前町長を破って11年に初当選した。

 建設に活用する合併特例債の発行期限の28年度が迫る中、町は今年8月に庁内検討に着手した。西田での建設には議会の3分の2の賛成を得ての条例改正が必要で、町を二分した経緯を考えれば難航は必至だ。

 中新田では、大学教授と商店主らが商店街活性化基本計画を16年にまとめていた。呉服店跡地に拠点施設を設け、酒蔵や蔵などの既存の町並みと連携する構想だったが、運営主体や新庁舎との位置付けなどで合意できず頓挫したままだ。

 「富谷市に今年開業した富谷宿観光交流ステーション『とみやど』は注目を集めている。我々が目指したものと同じだ」と商店街関係者は悔しがる。「住民合意をまとめ、まちづくりと一体の新庁舎構想をつくるべきだ」と注文する。

 3期目で在任10年を過ぎた猪股氏。アイデアを実現する突破力が持ち味だが、難題解決には対話を重ねて合意形成を進める姿勢が求められる。
(加美支局・阿部信男)

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