揺らぐ憲法の自由権 「安倍・菅」から「岸田」新政権へ

 改憲を掲げた安倍政権と引き継いだ菅政権の下、憲法の自由権は何度も脅かされた。強権的にも映る政治手法に少数者や異端者への世間の嫌悪の声が追い打ちを掛け、政策課題の冷静な議論がかすむ。新政権発足と衆院選を前に、揺らぐ憲法の現場を振り返った。(報道部・関根梢、勅使河原奨治)

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が発令中の9月上旬、仙台市青葉区の旧さくら野百貨店裏にある通称「せんべろ通り」で1軒の居酒屋が営業していた。経営者の男性が申し訳なさそうに口を開く。

 「『けしからん』と言う人もいるが、悪いことをしようと思っているわけではない」

 昨年から続く営業自粛要請に1年近く付き合ったが、春先から金融機関の融資が止まり事情は一変。要請に従って協力金を手にしても、月1000万円以上の赤字が見込まれた。

酒類提供停止や時短営業の要請解除を翌日に控えた東北最大の歓楽街、国分町地区。一部の店舗は要請に従わず、営業を続けた=9月30日、仙台市青葉区国分町

 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる(憲法29条)

 憲法は経済活動の自由を制限する場合、正当な補償をする規定が盛り込まれている。しかし今回、政府は補償の対象になる制限ではないとして協力金で理解を求める。

 男性は「補償が十分なら誰だって従う。今は『崖に向かって歩け』と言われているようなものだ」と嘆く。

 昨年10月、「学問の自由」を巡って政治が揺れた。日本学術会議の任命拒否問題。拒否された6人は人文・社会科学の研究者で、安倍晋三首相の時に成立した集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法や憲法改正に反対していた。

 菅義偉首相は「総合的、俯瞰(ふかん)的に判断した」と拒否理由を説明したが、政治による恣意(しい)的な人事介入だと批判を浴びた。

 今年4月、東京・永田町の内閣府を東北大名誉教授の井原聰・日本科学者会議事務職長(当時)が訪れた。任命拒否撤回を求める6万人の署名提出に同行した。

 学問の自由は、これを保障する(憲法23条)

 井原名誉教授は「批判は物事を発展させるための原動力。学問は多数決でなく、多様性があってこそ意味を持つ。『右翼』『左翼』の問題ではない」と話す。

 「表現の自由」も岐路に立たされている。

 白いブリーフ姿を会員制交流サイト(SNS)に公開し、過激な投稿を繰り返した仙台高裁の岡口基一判事。国会の裁判官弾劾裁判所から7月、投稿が不適切と判断され、職務停止の決定を受けた。

 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する(憲法21条)

 岡口判事の書物は司法界で「民事訴訟のバイブル」と高く評価される。しかし、異色の判事に向けられる世間の視線は「気持ち悪い」「非常識」と芳しくない。弾劾裁判所が今後、罷免の有無を決める。

 仙台弁護士会のある弁護士は「犯罪被害者が不快に思う投稿もあった。ただ、表現活動を理由に罷免する場合は、よほどの限度を超えた時に限らなければ、萎縮効果を生む」と語る。

 国から介入されない自由は憲法が定める大事な権利だが、規制や介入との衝突に敗れ、一人一人の自由が狭められるケースが相次ぐ。

 国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない(憲法12条)

 東京都立大の木村草太教授(憲法学)は「自分が当事者でなくても権利の侵害を敏感に感じ取り、抗議の声を上げることが大切。国政選挙は抗議の声を示す重要な機会だ」と話す。

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