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技能実習生支援アプリ使えない? 自国の端末、通知届かず

 外国人技能実習生に対し、生活情報や相談窓口を知らせるスマートフォン用アプリ「技能実習生手帳」の普及が7月に始まった。2017年設立の「外国人技能実習機構」が開発し、災害情報などを直接、プッシュ通知できるのが特徴だ。うまくいけば有用なツールとなりそうだが、福岡市の西日本新聞「あなたの特命取材班」に寄せられた専門家の意見では、その特性を生かし切れない実情があるようだ。

外国人技能実習機構が開発した新アプリ「技能実習生手帳」の画面

 「いいです」「分かりません」…。7月末、福岡県古賀市で実習生向けにあった「やさしい日本語教室」で、取材班が「技能実習生手帳」を見せても、ベトナム人実習生はアプリのダウンロードに乗り気ではなかった。情報量が多過ぎて、分かりづらいことが理由のようだった。

 このアプリは無料で、中国やベトナム、ミャンマーなど9カ国の言語に対応。交通など日本生活のルールや労働法制、各種相談窓口の情報が盛り込まれている。入国時に同名の冊子が実習生に配られるが、あまり活用されていないとみられる。外国人技能実習機構は「スマホはほぼ全員が保有している」(援助課)ことから、アプリに掲載して利用を促すことにした。

 同機構は今後、災害や新型コロナウイルスのワクチンなどの情報について、アプリ所有者に「お知らせ」をプッシュ通知していく考え。「新たに入国する実習生には、全員ダウンロードしてもらえるよう入国時の呼び掛けに力を入れる」と説明している。

 「国内通話ができるスマホを持っている実習生はほとんどいません。『技能実習生手帳』が有効なアプリになるかどうか」

 福岡市の行政書士、野中友裕さんが「あなたの特命取材班」に疑問を呈す投稿を寄せた。実習生などの入国手続きをサポートする専門家の指摘はこうだ。

 実習生は日本の携帯電話会社とは契約せず、自国から持ち込んだ端末を日本でも使い、Wi-Fiがある居住環境などで会員制交流サイト(SNS)を通じ、携帯電話同士で通話するケースが大半という。

 「やさしい日本語教室」で取材班が話を聞いた4人の実習生も、フェイスブックなどのSNSの無料通話しか使っておらず、固定電話には連絡できなかった。プッシュ通知をしても、Wi-Fi環境下でしか届かないことになる。

 アプリ内には、緊急連絡先の固定電話の番号をクリックすれば通話できるボタンもあるが、これも利用できない実習生が多いということになる。同機構に取材すると「通話できるスマホを周囲から借りてもらうしかない」との答えが返ってきた。

 機構も手をこまねいているだけではない。6月末から「フェイスブック メッセンジャー」で「友人申請」をした上で音声相談できるサービスも試験的に始めた。ただ、現在のところインドネシア、ビルマ語に限られている。

 「やさしい日本語教室」の実習生もメッセンジャーを使い慣れており、対面授業ができない現在もこのビデオ会議機能を使っているという。厚生労働省は「2カ国の利用状況を検証しながら、他の国に拡充するか検討していく」と話している。

 「技能実習をしっかりとした制度にしていくには、実習生と機構の連絡手段をより簡単に、誰でもアクセスできるようにしなければならない」と指摘する野中さん。「機構の相談員の拡充が不可欠で、チャット(文字)による相談も受け付ける窓口も準備してほしい」と求めている。
(西日本新聞提供)

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