社説(12/30):エスカレーターマナー/他人への思いやりが基本

 全国初という「エスカレーターの安全な利用の促進に関する条例」が10月、埼玉県で施行された。罰則こそないものの、利用者の義務として「立ち止まった状態で利用しなければならない」と明記されている。

 業界団体の日本エレベーター協会のまとめでは、国内にあるエスカレーターは約7万台。うち約半数をショッピングセンターや百貨店が占め、交通機関は1万台強ある。長年、急いで上る人のために「片側空け」がマナーとも言われ、定着してきた。

 近年は逆に「手すりにつかまり」「歩いたり、走ったりしない」ことを啓発する動きが活発になっている。

 協会のホームページでは、「片側をすり抜ける際に他の利用者や荷物などと接触して事故を招く」「歩行や走行でバランスを崩し、転倒などで他の利用者を巻き込む」などの危険性を指摘し、「どちらか片側の手すりしか利用できない人もいる」として、歩行禁止を呼び掛けている。

 鉄道事業者なども加わった安全利用のキャンペーンも毎年開催。今年もJR東日本や仙台市交通局など51の鉄道事業者などが加わり、「歩かず立ち止まろう」とポスター掲示などで呼び掛けた。

 協会の利用者アンケートでは、「エスカレーターを歩行してしまうことがある」と答えた人が2019年度までは約8割だったが、20年度には69・1%に減少。「歩行をやめた方がいいと思う」という回答の割合は年々上昇し、20年度は86・9%に達した。

 着実に浸透しているように見えるが、それでも一度定着したものは一朝一夕には変わらない。仙台市の地下鉄でもラッシュ時、空いた右側を足早に歩く人がいる一方、左側には利用を待つ長い列ができる光景が見られる。

 埼玉の条例は議員提案だ。「慣例となっているほど社会に定着した人々の行動を変えるためには、より強いメッセージを発信する必要がある」と提案理由が説明されている。

 こうしたエスカレーターの片側空けは、もともと日本だけのマナーではないという。

 国土交通省の資料によると、英国の地下鉄では、エスカレーターに、右側に立って左を空けることを促す表示があった。15年と16年、一つの駅で歩行禁止の実験を行ったところ、両側利用では片側空けよりも約30%、輸送能力が向上し、渋滞も緩和されたという。

 「急ぐのでエスカレーターを歩く(走る)」という人が「空けるのが当然」と、権利であるかのように主張することには違和感がある。「歩行禁止」が法的な強制になじむとも思えない。「マナー」として、それぞれの立場を思いやり、TPOに合わせた行動が広がる中で、事故につながる危ない利用が減っていくことが一番だろう。

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