聴覚障害者との意思疎通に「指さし会話シート」 ホテルの備え、いいね2万件

浅草寺の近くにあるホテル「ビーコンテ浅草」=東京都台東区浅草

 東京・浅草のホテルが聴覚障害のある宿泊者に行った対応について「素晴らしい」と会員制交流サイト(SNS)上で共感を呼んでいます。ホテルでは、意思疎通を補助する「指さし会話シート」2種類を準備していました。宿泊者がツイッターで「ほんと神」と称賛すると、2万件近い「いいね」が寄せられました。シートの一部は河北新報社が作成し、インターネットで公開していたものでした。当事者たちに詳しいいきさつを尋ねました。(編集局コンテンツセンター・佐藤理史)

反響を呼んだユッケさんの投稿(ツイッターより)

よくある問い合わせ内容盛り込む

 投稿した20代の会社員女性ユッケさん(ハンドルネーム)は1月中旬、中長期滞在型のホテル「ビーコンテ浅草」(46室)に宿泊した。予約時に「耳が聞こえないので筆談での対応をお願いします」と伝えたところ、チェックイン時に2枚のシートを渡された。

 1枚は客室設備に関する問い合わせ用。「不具合があります」「質問があります」などの目的、「キッチン」「バスルーム」などの場所、「お湯が出ない」「汚れている」などの不具合の具体例が、それぞれ表にまとめられている。

 もう1枚は河北新報社が2020年に作った災害時用。「避難が必要ですか」「電車・バス・地下鉄は動いていますか」といった質問ごとに「はい」「いいえ」の選択肢が用意してある。あいうえお表や筆談スペースも付いている。

 ユッケさんによると、聴覚障害者の外泊は不便がまだまだ多い。問い合わせに内線電話が使えず、フロントに都度行くのは一例。火災報知機の警報音や避難放送が聞こえないため、災害時に逃げ遅れることへの不安も大きいという。

 ユッケさんは「ここまで丁寧な対応をしてくださったホテルは初めてで、うれしかったです。シートのおかげで、非常に安心して過ごすことができました」と振り返る。

 多くの人に知ってもらおうと、シートの画像を添えて「用意してくれたのほんと神」とツイートしたところ、5000件以上のリツイート(転載)、150件を超える共感のコメントが寄せられた。

 2011年開業のビーコンテ浅草によると、聴覚障害者を迎えるのは初めてだった。どのような不便があるかを想像しながら、よくある問い合わせの内容をシートに盛り込んだ。災害時用はインターネット検索でたどり着いた河北新報のサイトから印刷し、ラミネート加工を施した。

 支配人の井田梨絵さん(35)は「恥ずかしながら予約があるまで準備していませんでした。用意しておくのが当たり前だと感じましたし、まだまだ行き届かないところもありますので、これを機に取り組みを進めたいと思います」と話す。

「指さし会話シート」を用意した井田支配人=2022年2月10日(ビーコンテ浅草提供)

「神対応」が「普通」になる世の中に

 災害時用のシートは、河北新報社が20年1月に開催した防災ワークショップ「むすび塾」で、参加した聴覚障害者や支援者らの意見を踏まえて作った。同年5月に一部改訂した。

 シートの作成に携わった宮城県聴覚障害者情報センター(みみサポみやぎ)施設長の松本隆一さん(60)は聴覚障害のある自身の経験から「ホテルがしっかりと調べて体制を整えており、好感が持てました。聴覚障害者は安心感や優しさを感じ、仮に不便な場所にあっても利用したいと思うでしょう」と同意する。

 一方、会話シートの活用や普及には課題を感じている。「段差の解消、バリアフリートイレの整備といった物理的な対応と異なり、情報の円滑化は常にさまざまな人たちの理解と配慮がないと忘れられてしまいます」と指摘し、センターとして啓発活動に力を注ぐ。

 「神対応」が「普通」な世の中になるにはどうすればいいのか。ユッケさんは「当事者がこうしてほしいとはっきり伝えることが大切」と話す。聴覚障害を明かすことをためらう人が少なくない事実も考慮し「ホテル側は普段から『健常者だけではない』と意識して準備することが必要になるのでは」と問い掛ける。

 「どちらかだけがアクションを起こすのではなく、お互いが歩み寄り、工夫することで『普通』になっていってほしいと願っています」と結んだ。

災害時の聴覚障害者指さし会話シート(PDF)

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