手厚いサポート、国試合格率に結実 東北医科薬科大の6年(上)

 東日本大震災からの復興支援と医師不足の解消を目的に、国内で37年ぶりに新設された東北医科薬科大(仙台市)の医学部1期生が4月から東北各地の医療現場に出る。大きな期待が寄せられる半面、地域定着への課題も残る。6年間の歩みと現状を探った。
(報道部・佐藤素子)

高齢者宅を訪ね血圧測定する医学部生(前列右と中央)。地域への愛着が定着を促す=昨年6月、登米市(東北医科薬科大提供)

 「3月が近づくと受診する患者さんが多くなる」

 東北医科薬科大(宮城野区)医学部1期生の鈴木紅音さん(26)=静岡県出身=は臨床実習で、指導教員からこう教わった。実際に患者から「3月は気分が落ち込む」と言われたこともある。

 病院は沿岸部に近く、津波で大きな被害に遭った患者も多い。教員は「震災が背景にある」と説明した。「まだ終わっていないんだな」と鈴木さんは震災の爪痕を実感した。

 震災を契機に誕生した医学部が医師になる夢の扉を開けた。「自分を育ててくれた大学と、実習でお世話になった病院など地域の人たちに恩返しがしたい」。臨床研修が終わる2年後以降も東北で働くつもりだという。

 厚生労働省の統計によると、2020年末の人口10万人当たりの医師数は全国で256・6人。東北は福島の205・7人を最低に全県で全国を下回る。

 東北の地域医療を担う人材育成を目指す新設医学部は、定員100人のうち東北の高校出身者は2~3割ほど。鈴木さんのように考える学生もいるが、教員らの間では「どれだけ東北に定着してくれるだろうか」という不安は強い。

 将来働く地域の生活や価値観に愛着やなじみがなければ、その土地に根を下ろす気持ちは芽生えない。大学は1年時から通常の医学教育に加え、東北の風土を踏まえた医療の現状を知る実習も実施している。

 学生を4~7人のグループに分け、東北の19基幹病院を2~6年時に繰り返し訪問させる。特に6年時に参加する6週間の泊まり込み実習では、訪問看護のチームに同行するなどして地域医療の最前線を実際に体験してもらう。

愛着から定着へ

 地元の福島県いわき市で実習を続けた1期生の鈴木法彦さん(26)は「よく知る土地で地域医療の現実を見ることで、より理解が深まった」と振り返る。

 基幹病院の一つ、宮城県の石巻市立病院は院内に地域医療教育の拠点となるサテライトセンターを設けた上、大学から教員も常駐させて実習に協力してきた。椎葉健一病院長(68)は「市の診療所への医師派遣も事欠いている。今後毎年1、2人の医師の受け入れを見込めるのはありがたい」と期待する。

 学生への手厚いサポートは着実に成果へと結び付いている。16日に発表された1期生の医師国家試験合格率は96・8%と、新卒者の全国平均(95・0%)を上回った。臨床研修先が決まった85人中、7割近い57人が東北を選んだ。「東北に医師を送り出すという目的を、まずは果たすことができた」と、福田寛医学部長(73)は胸をなで下ろす。

 どの大学の医学部も、医局や部活動の先輩後輩のつながりが強い。大学側は22年度に「医学部卒後交流支援センター」を新設し、インターネットのコミュニティーサイトを活用して卒業生との交流を続け、勤務先などの動向把握に努める。担当者は「地域定着には、息の長いサポートが欠かせない」と話す。

[東北医科薬科大医学部]政府は震災復興支援の特例で2013年11月、東北で1校に限り医学部新設を認めた。文科省は14年6月に新医学部構想審査会を設置し同8月、応募があった3団体から東北薬科大(当時)を選んだ。同大は16年4月の医学部発足に伴い、東北医科薬科大に改称した。

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