おばあちゃん犬、感謝の涙 ペットは家族(1)

最期が近づき、目が潤んだナナ

柴犬ナナと住職さん夫妻の5871日

 愛犬の目が瞬く間に潤んだ。一筋の光るものが流れた。「ねえ、ナナが泣いたよね、今」。岩手県一関市川崎町の主婦後藤美由紀さん(53)はすぐには信じられなかった。とっさにもらい泣きしてしまう。

 ナナは17歳のおばあちゃん柴犬。日に日に体の自由が利かなくなった。美由紀さんお手製の介護ベッドに横たわっていた。ちょうど長女が嫁ぎ先から励ましの電話をくれた。美由紀さんはナナへとスマートフォンを向けた。画面越しに長女はナナに語りかけた。「ワン、ワン」。子供の頃と同じように犬の声まねで。

 ナナはもう満身創痍(そうい)だった。いつもの食事ができなくなり、丸2日。聴覚も、視覚も失い、反応に乏しい。それでも時に耳を懸命に立て、ぴくりと動かしていた。

 「見間違いだったかもしれないな?」。記録係の夫・泰彦さん(62)が撮影をやめ、カメラを遠ざけた瞬間だった。ナナの目が再びきらりと光り、ひとしずくがこぼれ落ちた。1月18日午後9時ごろの出来事。

 美由紀さんはなぜか寝付けそうな気がしなかった。ナナがいる居間に残る。遠く離れた大本山永平寺で修行中の長男に近況報告の手紙を書くと、もう午前2時過ぎ。不意にナナの左前足を握った。30分くらいは手をつないでいただろうか。ナナがクイッと少し力を込め、美由紀さんの左手を引いた。

 何か意思表示かもしれないと思い、美由紀さんはナナを抱き上げた。以前は15キロほどあった体は5キロ程度に細っていた。それにしてもいつもより軽い。ナナは力なく首をかしげていた。

 ちょうど寝室から泰彦さんがやって来た。「まだ寝ないのかい?」。午前3時過ぎだ。美由紀さんは少し脱力した表情で返した。「あのね、ナナが今、逝っちゃったの」

 あれは2005年のクリスマスイブ。生後2カ月のナナは後藤家へ。泰彦さんが住職を務める常堅寺の番犬となった。2年前に足腰が弱まると、美由紀さんが家庭内で献身的に介護した。ちょうどステイホームのご時世。関係はより密になった。食事をして、排せつをして毎日を終える度に喜び合った。

 美由紀さん「今日も生きたね」

 ナナ「ワン」

 1月19日にナナをみとってからも、人間同様の儀式を重ねた。葬儀、四十九日法要。5日には百か日法要も。別れから3カ月以上過ぎても、夫妻にはいわゆる「ペットロス」のようなこらえきれない悲しみは訪れていない。心の隙間を埋めようと代わりを探す訳でもない。

 美由紀さん「だって最後までナナの生涯に一生懸命に連れ添えたし、涙で感謝してもらえたから」

 泰彦さん「不思議といつかまたナナに会えそうな気がする」

 そして2人はそろって言う。

 「ペットは家族。お別れしても心は通じている」

仏前に置かれたナナの遺影と似顔絵
ナナの位牌の前で百カ日法要の読経をする後藤泰彦さん=5日、一関市の常堅寺

 ペットとは単なる愛玩の対象か、それとも「家族」と言える存在なのか。ナナとともに暮らした後藤夫妻の5871日から、ペットと人間の関わりを探る。毎月ナナの日(7日)に更新する。
(一関支局・金野正之、ツイッターのアカウント名は「金野正之@河北新報『今こそノムさんの教え』『ペットは家族』の人」)

最期に「感謝の涙」
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