信頼を積み重ね道開く 福島の農産物、海外へ(上)波及

 東京電力福島第1原発事故後、一時は世界の55カ国・地域で福島県産の農林水産物の輸入規制が敷かれた。福島の農家は、安全で高品質な農産物を地道に作り続け、逆境を耐え忍んだ。県や農協とタッグを組み、輸入制限が解かれた国へ販路を広げようと懸命だ。輸出拡大を反転攻勢の好機と捉える農業関係者の姿を追った。(福島総局・吉田千夏)

UAEに向けてあんぽ柿をトラックに積み込む伊藤さん(右)=1月、伊達市のあんぽ工房みらい

あんぽ柿、中東に

 箱に詰められた鮮やかなオレンジ色が目を引く。福島県北特産の干し柿「あんぽ柿」が今年1月、伊達市の「あんぽ工房みらい」からアラブ首長国連邦(UAE)向けに出荷された。工房の菊池洋介センター長は「あんぽ発祥の地から世界に出せた」と感慨深げだった。

 ローマ字で「Anpo Gaki」と、アラビア語が書かれたシールが貼られ、約180キロが船と飛行機で現地に届いた。

 あんぽ柿は原発事故後2年間、出荷自粛を余儀なくされた。3年前、先に規制が撤廃されたタイとマレーシアにあんぽ柿を輸出しているが、関係者はUAEに目を向けた。

 県によると、中東には原発事故前、輸出実績はない。人や物が集まるUAEに狙いを定め、中東からヨーロッパやアジアなどへ波及効果を狙う戦略だ。2018年ごろ、輸出の可能性を探るため農協や関係団体、生産者らが連携してあんぽ柿輸出研究会をつくった。

 PRと調査で県職員は計3回、UAEの首都ドバイに赴いた。19年2月、当時県農産物流通課主幹の伊藤裕幸さんはドバイで、UAE政府関係者、王族らにあんぽ柿を振る舞う機会を得た。不思議そうな顔をしていた人たちが口に含むと「甘い」と笑顔になった、あの時の表情が忘れられないという。UAEではドライフルーツを食べる習慣があり、商談会でも好感触を持った。

調理方法も提案

 輸出の道筋が見え始めたころ、取引業者から「賞味期限を延ばせないか」と難題を突き付けられた。水分量が多く国内で流通するあんぽ柿の賞味期限は約1カ月。ドバイまでは海路で約40日かかる。

 頭を悩ませた関係者は思案の結果、地元の農家が冷凍保存していることに着目。試験を繰り返し、見た目や味、放射性物質濃度などをチェック。1年間は品質に問題がないことを確認できた。

 売り込み方法も工夫した。天ぷらにしたり、切り刻んでナッツとサラダを加えてあえ物にして提供してみた。意外に好評だった。「日本の慣習を押しつけるのではなく現地のニーズに合わせてアピールした」と伊藤さん。現地のレストランへ調理方法を提案するなどし、約10店で扱われることになった。

 現在、福島産農産物の輸入規制が残るのは14カ国・地域。撤廃に向けた交渉は政府が担う。県は情報の正確な発信を進める。台湾や米国などの政府関係者や、インターネット上で影響力を持つインフルエンサーらを招き、放射線検査状況や食品の生産地などを見学してもらうなどした。

 伊藤さんは「直接見て食べて、『大丈夫なんだ』と知ってもらうことの繰り返しと、小さな信頼を少しずつ積み重ねて規制緩和につなげてきた」と振り返る。

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