岩沼市長選・課題を探る(下) 津波想定 住民避難の充実重要

新たな津波浸水想定の市民説明会。会場が埋まり、関心の高さを示した=19日、岩沼市の玉浦コミュニティセンター

 任期満了に伴う宮城県岩沼市長選が29日告示、6月5日投開票の日程で行われる。東日本大震災からのハード面の復興に区切りがついた一方、仙台圏に位置し、仙台空港が立地する地の利を生かしたまちづくりや防災面に課題も浮上する。ポスト復興の地域づくりを探る。
(岩沼支局・高橋鉄男)

 「新しい家が並ぶこの辺りは、転入者が多いんですよ」。海から2キロほど離れた岩沼市東部、林二町内会長の庵原(いはら)幸男さん(73)が周囲を見やった。

講話「何度でも」

 東日本大震災の津波で1メートル超浸水し、市営住宅が取り壊された。跡地に約30世帯の民家が建ち、復興した街に震災を経験していない人々が暮らす。「アパートの40戸を含めると、約140世帯ある町内会のおよそ半数が新住民。やっぱり津波は不安でしょう」

 県内で震度6強を観測した地震で津波注意報が出た3月16日夜は、内陸に向かう車が相次ぎ、県道に列ができた。大きな地震のたびに起きる「車避難渋滞」も心配事になっている。

 県が今月10日に公表した新たな津波浸水想定は不安に拍車をかけた。市内は地震発生の約1時間後に最大11・2メートルの津波に襲われ、林二町内会は1~5メートルの浸水深になると示された。

 庵原さんは20日、市の担当者を招いて防災講話を開いた。「ついのすみかと移り住んだ人に、なんとしても命を守ってほしい」。そう願って約30世帯に案内を出したが、出席は6人。「何度でも開くよ。渋滞もなんとかしないと」

 新想定によると、市沿岸部に4カ所ある緊急避難場所は、浸水深が3~5メートルとなり、内陸部の6カ所も浸水域に入る。市は「浸水深を見ればどの施設も避難に耐えうる」としながら、避難先を今後増やすという。

 13日には国が北海道や東北を対象に避難施設の整備補助を拡充したが、県内の沿岸市町はどこも復興事業で津波対策を終えたばかり。「復興のように全額国費ではないので相当慎重になるだろう」と関係者は見通す。そもそも、ハード面の対策には限界がある。

逃げ遅れゼロへ

 高齢者や障害者の逃げ遅れをなくすため、市は「ソフト対策の充実が重要」として本年度、個々の避難手順をまとめた個別避難計画の策定に着手する。

 市西部の山あいにある志賀地区。1人暮らしの大久保房子さん(92)が計画づくりのモデルケースに選ばれた。山の斜面が迫る自宅は土砂災害特別警戒区域に入る。今春、転んで右腕をけがし、病院から「動かないで」と言われるうちに、両足がむくんで歩きづらくなった。

 「急な大雨の時は周辺が水没し、迎えに行けなくなる。とても心配だわ」。市内に住む長女が案じると、房子さんは「いつも地域の人たちが気にかけてくれる。個別避難計画を作ってもらえるのはありがたい」とほほ笑み返した。

 市の担当者は「計画策定は地域住民をはじめ、平時から向き合うケアマネジャーなど福祉の力が欠かせない」と訴える。ハードの復興が完了した今、震災時の助け合いを進化させた地域づくりが問われている。

[個別避難計画]災害時に自力の避難が困難な要支援者一人一人の避難先や手段、支援者をそれぞれ具体的に盛り込む。国が2021年、災害対策基本法を改正し、計画策定を市町村の努力義務とした。県内の大半の市町村が22年度以降に順次、策定に着手する。

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