(295)戦死せり三十二枚の歯をそろへ/藤木 清子(生没年不明)

 成人の歯の数は32本。それが一つも欠けていない壮健な若者の戦死を感情を抑えて詠む。昭和14年作の掲句は、戦死を生身の一人の人間の死としてわれわれに喚起する。この凄(すご)みのあるイメージはどこから来たのか。遺体の歯による身元確認のことを聞いたのかも知れない。やがて個人さえ特定できない殺戮(さつりく)の時代となる。作者には<出征のどよめき遠き丘にのぼる>の句も。当時の人々の興奮とは距離を置く視座に、時代との葛藤がうかがえる。『新興俳句アンソロジー』より。(永瀬十悟)

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秀句の泉

 「秀句の泉」は、俳句の魅力を伝えます。執筆は俳人の永瀬十悟さん(福島県須賀川市)、浅川芳直さん(宮城県名取市)、及川真梨子さん(岩手県奥州市)の3人。古典的な名句から現代俳句まで幅広く取り上げ、句の鑑賞や季語について解説します。

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