地方移住は孫ターンに注目 先読み!とうほく経済ーー田中輝美

ローカル新潮流(2)

 文明論的に見ると時代はどこに向かうのか。多様性の時代に企業や職場はどうあるべきか。「とうほく経済」に求められる視座を週1回、4人の識者・経済人に輪番で発信してもらう。

■祖父母の住む地方に移住

田中輝美さん

 地方への移住者と言えば、出身者が戻るUターン、出身ではない土地に移るIターンが知られていますが、もうひとつ、新しい型とされる「孫ターン」という言葉があります。高度成長期に仕事を求めて都会に出た世代の子どもたちが、親とは別に、祖父母のいる地方に移住することを指しています。

 移住者の1、2割は当てはまるという説もあり、実例を紹介します。

 中国山地の真ん中辺りに位置する島根県邑南町(おう なん ちょう)にあるカフェ「こめじるし」。今や隣県の広島・山口からまでわざわざ人が訪れる人気店です。オーナーの米田光希さんは10年前、生まれ育った広島市を離れ、同町内にある祖父母の家に孫ターンしてきました。

 夏休みになると長期間滞在し、田んぼの中を駆け回ってカエルやトンボを追いかけていた少年時代。デザインの仕事に就き、幸さんと結婚して広島市内に居を構えました。

 ただ、お互い仕事が終わるのは早くて22時。帰宅しても寝るだけの日々。ふと再訪した祖父母の家の空気感が気に入り、やりたいことが次々と浮かんだそうです。

 「もっと生活が楽しい方がいい。思い切って変えてみるか」と会社を退職。移住後ほどなく、町内に庭のモミジが印象的な小さな一軒家を見つけ、一目ぼれして購入しました。

 できる限り自分の手でリノベーションして家具をつくり、地元食材を生かして「身体にやさしいもの」を用意。2人の思いが実現したカフェは友人や祖父母らがさらに人を連れて来て、初日からにぎわいました。7年たった今も安定的に経営を続けています。

■課題は親世代の反応

 島根県内だけでもほかに、同じように子ども時代に過ごした楽しい思い出が忘れられず孫ターンしてきた県庁職員や、祖父母の農業を継いだ人、祖父母の家を拠点にメダカ飼育の夢を実現させた人もいます。孫ターンは祖父母とのつながりがあることで地域に溶け込みやすく、住まいも見つけやすいといった利点があるとされています。大分県豊後高田市のように孫ターンに奨励金を用意する自治体もあります。

 ただ、実は孫ターンの最大のネックが親世代の反応で、歓迎されないことが多いという話には考えさせられます。光希さんの父親も当初は孫ターンに首をかしげ、理解しづらい様子だったそうです。

 しかし、今ではちょくちょく農作業の手伝いに来るようになりました。「祖父母がいなかったら自分はここにいない」と振り返る光希さんは「もしかしたら、父も少しずつ気持ちが変わってきたのかもしれませんね」と笑います。
(ローカルジャーナリスト=島根県浜田市在住)

[田中輝美(たなか・てるみ)さん]島根県浜田市生まれ。大阪大文学部卒。1999年、山陰中央新報社(松江市)入社。2013年、琉球新報社との合同企画「環(めぐ)りの海」で新聞協会賞受賞。14年退社し、島根に暮らしながらローカルジャーナリストとして独立。主な著書に『関係人口の社会学』、編著書に『みんなでつくる中国山地』など。21年から島根県立大地域政策学部准教授。

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