研究職、改善進まない労働環境 パワハラ被害の訴え届かず <参院選・暮らしどこへ>

パワハラ被害の申立書を見つめる鈴木さん。旧態依然の体質に苦しむ研究者は少なくない

 メールを開くと動悸(どうき)がする。パソコンを操作する手が震える。仙台市にある大学の工学研究科で特任助教だった鈴木幸一さん(40)=仮名=は当時の記憶に今もさいなまれる。

 「この作業なら2週間で十分」「研究ストーリーが描けていないと言っているに等しい」「貴君が仕事をしない分、(周りに)多大な負担がかかっている」

 研究科長から送られてきたメールは2020年3~8月で約40通に上る。作業に1カ月半が必要と訴えると2週間に短縮され、間に合わせても酷評された。修正案は具体的な指示がないまま何度も突き返された。

 「身動きが取れない。このままでは研究者生命が絶たれてしまう」。不眠や不安感に苦しみ、20年10月に適応障害と診断された。

 経済学の博士号を持つ鈴木さんは当初、経済研究科の研究職に公募。19年4月の面接で、同席した工学研究科長の要望で同科採用に変更された。

 与えられた仕事は、プロジェクトの運営管理という事務作業。研究時間がつくれないと半年以上訴えても状況は変わらず、職員組合を通して改善を求めた結果が、研究科長からの嫌がらせのような対応だった。

 21年8月、大学のハラスメント対策委員会に被害を申し立てた。進展がないまま今年3月末に任期満了退職となり、4月から経済研究科で無給の博士研究員として働く。

 19年4月に働き方改革関連法、20年6月にはパワハラ防止法がそれぞれ施行され、労働環境は以前に比べ改善されるはずだった。鈴木さんにその実感はない。

 参院選は賃上げを訴える候補者が目立つが、「パワハラ被害などで追いやられた人々の代表者はいない」と言い切る。

 東北大准教授だった夫=当時(48)=を12年に過労自死で失った前川珠子さん(57)=仙台市青葉区=も「労働問題は票にならない」と、政治家に過度な期待をしていない。

 「もう誰も死んでほしくない」との思いで13年、過労死遺族らでつくる「東北希望の会」を設立。過労死防止法の制定を求める署名活動に奔走した。14年に同法が成立し、社会の声が政治を動かすのを実感した。

 働き方改革関連法では様相が違った。罰則付き残業の水準が月100時間とされ「過労死ラインの80時間を超えるのは遺族として受け入れられない」と反発。連合会長にも直談判したが、無駄だった。会の代表を辞め、現在は個人の立場で労働問題に向き合う。

 「政治に注文するばかりでは駄目。働く一人一人が当事者意識を持って権利をつかまなくては」。まずは望む社会の姿を各自描くことが大事だと思っている。
(報道部・庄子晃市)

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