<東北の本棚>置賜ゆかりの文人回顧

米沢と文学 千葉 正昭 著

 「泣いた赤おに」を残した浜田広介、「吉里吉里人」で独自の世界を築いた井上ひさし。山形県置賜地方は日本を代表する作家2人を輩出した。さらに、賢君上杉鷹山の治世に代表される米沢藩の歴史は、創作者にとって魅力的な題材だ。

 置賜ゆかりの文人9人の半生を振り返り、この地の文化、自然、精神性が作品に残した足跡を探るのが本書の狙い。国文学者の著者が、山形県立米沢女子短大教授時代の3年間の研究成果をまとめた。

 トップバッターは樋口一葉ら数々の作家を発掘した大橋乙羽(おとわ)。米沢の老舗旅館に生まれた乙羽は上京後、出版社の創業者の娘と結婚。編集者として文学誌の新機軸を探った。紀行文を書かせても評価は高かったが、保守的な経営陣との対立や過労もあり、わずか32歳で病没した。著者はその心情を「ふるさと米沢への思いは生涯消えなかった」と尊敬を込めて推し量る。

 浜田広介がつくり上げた心温まる世界も、その逆境を考えると一層際立って見えてくるという。早稲田大卒業後、出版社に就職した駆け出し時代。優遇されたライバルの教訓的でナショナリズムが押し出された作品に対し、広介はそうした作風を徹底的に嫌った。古里高畠町の自然と、思春期を過ごした米沢の人とまちが、絶対善、絶対悪をつくらず純粋に命の尊さを描く創作の土台になったと、著者は信じて疑わない。

 うだるような夏の暑さから深雪がまちの喧噪(けんそう)を吸い込む冬の厳しさまで、四季により激しく表情を変える米沢。藩士とその妻を描いた山本周五郎の小説「不断草」では、登場人物の心象風景が巧みに描かれ、波乱の物語が一層哀切を持って読者の胸に迫る。鈴木由紀子、所健保(ところたけやす)といった現代の作家にもきっちり焦点を当てた。(浅)

 社会評論社03(3814)3861=1870円。

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