ITパスポート試験の勉強法は?参考書は?難易度は?合格率は? 初受験から合格まで
ITに関する基礎的な知識を証明する国家試験「ITパスポート試験(iパス)」。宮城県内の受験状況を取材したところ、金融業など非IT系企業からの応募者が急増していると知った。今年4月、入社22年目で畑違いのデジタル関連部署に配属された記者(43)が、最近よく聞く「デジタル人材」に憧れ、iパスに挑戦してみた。(編集局コンテンツセンター・小沢一成)
◆iパスとは?
まずはどんな試験なのか、概要を押さえておこう。
公式サイトによると、試験時間は2時間。ストラテジー系(経営全般)とマネジメント系(IT管理)、テクノロジー系(IT技術)の3分野から、四肢択一式で100問が出される。各分野の出題範囲と出題数は、ストラテジー系が「企業と法務」「経営戦略」「システム戦略」で35問程度、マネジメント系が「開発技術」「プロジェクトマネジメント」「サービスマネジメント」で20問程度、テクノロジー系が「基礎理論」「コンピューターシステム」「技術要素」で45問程度となっている。
近年の合格率が50%台で推移し、最年少合格者は7歳の小学1年生とあって簡単だと思われがちだが、幅広い分野から総合的な知識が問われるため、初学者が油断していると足をすくわれかねない。
文系出身の記者にとって、人工知能(AI)やビッグデータ、プログラミングといったITの世界は、どこか遠くの国の話のようで、なじみがなかったが、ストラテジー系だけは取っ付きやすく感じた。かつて経済取材班で金融業界を担当した経験があるため、財務諸表の見方や企業の経営戦略などはすんなりと頭に入る。知的財産権や労働関連法規といった法務もニュースで話題になることが多く、新聞を日々読んでいれば理解するのは難しくなさそうだ。
合格基準は総合評価点が1000点満点のうち、600点以上となっている。さらに、ストラテジー系とマネジメント系、テクノロジー系の分野別評価点も各1000点満点のうち、それぞれ300点以上が必要だ。得意分野を得点源として固めつつ、苦手分野の底上げも図らなければ合格はおぼつかないだろう。
iパスは誰でも受けることができる。受験料は7500円(税込み)で、公式サイトから申し込む。試験は47都道府県の会場でほぼ毎日行われるが、会場によって日程が異なるため、確認が必要だ。試験形式は会場のコンピューターを使って解答する「CBT方式」を採用している。
【ITパスポート試験の概要】
・試験時間は2時間
・四肢択一式で100問出題
・ストラテジー系(経営全般)、マネジメント系(IT管理)、テクノロジー系(IT技術)の3分野
・合格基準は総合評価点1000点満点のうち、600点以上。3分野別の評価点も各1000点満点のうち、それぞれ300点以上
・受験料は7500円(税込み)
・47都道府県で試験実施
◆教材選び
学習を始めるに当たり、重要なのは教材選び。インターネットで検索すると、過去問や模擬問題を集めたサイトやアプリ、学習コンテンツがたくさん見つかる。無料のサービスも多く、手軽で便利なことから、自分に合ったものを探すといいだろう。
ただ、アナログ全盛期に学生時代を過ごした記者は、迷わず参考書を手に取った。必要な知識が体系的にまとまっているのが書籍のいいところ。大事な部分を蛍光ペンで引かないと、勉強した実感が湧かない。
書店に行くと、さまざまな参考書が棚に並んでいるが、今回は、6月に取材した仙台市内の書店で一番の売れ筋という「いちばんやさしいITパスポート 絶対合格の教科書+出る順問題集」(SBクリエイティブ、1738円)を購入した。500ページを超える厚さに腰が引けたものの、丁寧な説明に適度な挿絵があって続けられそうだと思った。厳選した過去問題が付いているのもうれしい。
◆学習状況
学習期間は6月26日~8月5日の41日間で、総時間は58時間だった。学習時間の推移はグラフの通り。
最初の頃はやる気があって出勤前や帰宅後にこつこつ勉強したが、仕事が立て込んでくると、ついつい後回しにしてしまう。3週間もたつと、1日に5~10分という日が続いた。時折、グラフが跳ね上がっているのは、週末に思い出したかのように机に向かったからだ。だらだら勉強していても飽きそうだったので、7月26日に受験の申し込みを済ませた。試験日が8月6日に決まると追い込みへ。尻に火がつかないと集中できないのは、学生時代から変わっていない。
勉強方法は、参考書を繰り返し読むのが基本だった。仕事をしながらの資格取得は学習時間をどう捻出するかが課題で、時間が限られる中、他の教材には手を出さないと決めた。最初は内容を理解するよう努め、2回目以降は左官がこてを使って壁を塗るようなイメージで、少しずつ記憶を定着させていった。結局、参考書は4回読んだ。
苦戦したのは英語の略語だ。KPI(重要業績評価指標)とPKI(公開鍵基盤)など、似ているけど全く意味が違う用語が次々と出てくる。さすがにKKD(勘、経験、度胸)は略さなくてもいいじゃないかと思ったが…。この手の略語は「KPI(Key Performance Indicator)」といった具合に、元の英語を覚えるようにしたところ、意味も理解できて何とか乗り切ることができた。
iパスの公式サイトには、2009年度以降の過去問題が公開されている。しかも、実際の試験と同じCBTの疑似体験ソフトウエアをダウンロードできるので、利用しない手はない。ただ、量が膨大で、社会人が全てをこなすのは現実的でないかもしれない。記者は腕試しと本番に慣れる目的で、試験2週間前と前日の2度だけ挑戦した。
CBTの体験ソフトを使う際に大切なのは、ただ過去問を解くだけでなく、試験用の疑似プログラミング言語や表計算ソフトの仕様を確認することだ。疑似プログラミング言語の記述形式や表計算ソフトの機能、用語に関する詳しい説明が掲載されており、必ず目を通しておきたい。試験中も見ることができるので暗記する必要はないが、どこに何が書いてあるのかを知っていれば、問題の正解にたどり着く可能性が高まる。
◆受験申し込み
受験はiパスの公式サイトから申し込む。最初に申し込もうとしたら、土曜日の試験は3カ月先まで埋まっていた。社会人の応募者が急増しているからだろう。代休を取って平日に受験しようかと考えていたら、キャンセルが出たようで、8月6日の土曜日に予約することができた。
◆試験当日
試験当日は、あらかじめ自宅で印刷しておいた確認票と本人確認のための運転免許証を持って会場へ。同じ時間帯に受験したのは20人ほどで、学生風の若者が多く、社会人はちらほら。私物で持ち込めるのはハンカチとポケットティッシュ、目薬だけで、腕時計も駄目。シャープペンとメモ用紙は会場に用意されている。
そして、いよいよ試験開始。備え付けのパソコン画面に出題され、マウスで解答を選んでいく。途中、全く聞いたことがないIT用語が立て続けに登場し、画面に表示された残り時間が刻一刻と減っていく。冷や汗が背筋を伝っていく感覚に襲われるが、焦っても仕方がないと開き直り、深呼吸をして問題と選択肢を読み直す。25分くらい残して100問目を終えた。
後回しにしていた計算問題を解き、答えに迷った問題に立ち戻る。そんなことをしていたら、あっという間に試験終了。ため息をつく間もなく、自動的に採点が始まり、目の前の画面に結果が表示された。どうやら合格基準をクリアしたようだが、余韻に浸る暇もなく会場を後にした。
試験終了から数時間後、公式サイトの利用者メニューをのぞくと、既に結果をダウンロードできる状態だった。改めて確認したところ、総合評価点は885点。ITの世界に疎かった記者にとって望外の好成績だ。合格発表は9月14日、合格証書の発送は10月17日の予定。楽しみに待ちたい。
◆受験後記
ネット上には「ITパスポートを取っても意味がない」といった書き込みがたくさんある。確かに国家資格とはいえ、特定の資格を取得している人だけが従事できる「業務独占資格」でなく、社会人の転職で有利に働くとは思えない。記者にとっても、こうした体験記を書けるくらいで、知識がすぐ役立つわけではない。しかし、新聞社を含め、あらゆる業界にデジタル化の波が押し寄せている時代にあって、iパスで学んだ知識は非IT系企業でも社会人のキャリアを下支えする土台になることは間違いない。
「ITパスポート」というネーミングは味わい深い。公式サイトは「IT化が進んだ現代社会に羽ばたくために、社会人として必要な基礎的能力を有していることを国が証明する試験」とうたう。iパスへの挑戦は、これまで縁遠かったITの世界に興味を持つきっかけになった。さて、次は何を勉強しようか。そんな気持ちになれたことが、最大の収穫なのかもしれない。
◆合格体験記
iパス受験から2カ月以上たった10月中旬、合格証書が自宅に届いた。9月に専用サイトでの合格発表で結果を確認していたものの、西村康稔経済産業相の署名入り証書を受け取ると、何だか気が引き締まる思いがした。
合格したのはいいが、せっかくの資格をどうやって仕事に生かせばいいのだろうか。本稿で以前、「すぐ役立つわけではない」と書いたが、とんだ考え違いだったことを間もなく知ることになった。
例えば、ウェブメディアをテーマにした社内勉強会で、講師が説明に用いたのは「4P分析」だった。「製品(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」「宣伝(Promotion)」に着目し、企業側の視点から製品やサービスの競争力を分析するマーケティングの手法だ。iパスでも頻出分野とされるだけあって、記者にはなじみがなくても、ビジネスパーソンにとっては身近な知識なのだろうと、勉強会のテーマとは別の部分で妙に納得した。
「アジャイル」という言葉をご存じだろうか。「素早い」「機敏な」などを意味する英語で、システムやソフトウエアの仕様や要件の変更に柔軟に対応する開発手法の一つ。iパスの必修用語だが、10月12日にスタートした会員制ニュースサイト「河北新報オンライン」の社員向け説明会で、編集局長がこの言葉を使い、社内でちょっとした話題になった。
以前なら「走りながら陣立てを整えよう」といった話だったかもしれない。誰にでも伝わる言葉遣いを重視し、普段からカタカナや横文字を敬遠しがちな雰囲気が根強い新聞社でも、ITはもはや避けて通れなくなっている。
最近は余勢を駆って、独学でプログラミングの勉強を始めた。ウェブサイトの情報を自動で収集する「スクレイピング」を試行錯誤していると、iパスの参考書に載っていた「相対パス」「絶対パス」などの専門用語に出合う。使いこなすというレベルには程遠いが、無関係を決め込んでいたITの世界へのパスポートを手にした気分になっている。
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