止まらぬ円安、価格転嫁や生産縮小も 東北の事業者が対応に苦慮

 東北の事業者が、急激に進む円安の対応に追われている。事業者は円安を背景とした輸入原料などの調達コスト増加を受け、販売価格への転嫁や生産品目の絞り込みなどの対策を打ち始めた。観光産業などは、円安を追い風としたインバウンド(訪日客)消費の回復に期待を寄せる。

円安で輸入牛肉などの原価が高騰し、一部メニューの値上げに踏み切った焼き肉店=仙台市青葉区の「焼肉ここから仙台本店」

 揚げかまぼこ製造の水野水産(塩釜市)を襲うのは、主原料の米国アラスカ産スケトウダラのすり身の価格急騰だ。カニ風味かまぼこの世界的なブームに円安が重なり、1年で1・5倍になった。輸入しているうま味調味料も3割超値上がりした。

 商品価格を据え置いてはもはや商売が成り立たない水準で、3月に7%前後値上げしたのに続き、今月も一部をさらに同程度上げざるを得ない状況だ。加えて生産効率を改善するため、生産品目を3分の1に縮小。水野暢大(のぶたけ)社長(65)は「悪いインフレが進んでいる」と荒波を耐え忍ぶ構えだ。

 農業資材販売のおてんとさん(大崎市)は、メーカーからの仕入れ値が11月に平均1割上がるのを受け、来春販売分を前倒し調達する。高橋栄吾社長(62)は「今の価格も安くはないが、さらに上がるのが分かっているならば、少しでもストックしてやりくりするしかない」とため息をつく。

アイリスは国内に生産移管

 肉の7割を米国などから輸入する「焼肉ここから仙台本店」(仙台市)は円安による仕入れコスト増を受けて今月、メニューを改定した。タン塩は4割、黒毛和牛カルビは2割値上げした上で、仕入れ値があまり変わらないホルモンを使ったメニューを増やした。

 9月の売り上げは値上げ前と比べ3割ほど落ち込んでおり、佐々木亮二店長(38)は「新型コロナウイルス禍で客数が伸び悩む中、円安が追い打ちとなっている」と肩を落とす。

 アイリスオーヤマは中国の4工場で生産するプラスチック製収納用品など50種類を国内3工場に生産移管する。円安によってドル建ての海上輸送費が重しになっているのが一因。対策を講じることで2割のコスト削減を見込む。

 円安の恩恵を受ける業界もある。仙台市や宮城県の観光情報を発信する広報会社のオフィスプランB(仙台市)の松本尚美社長(43)は「訪日客が円安で安く買い物ができる利点がある」と話し、外国人観光客向けのビジネスにメリットをもたらすとみる。

 米国や中国、韓国など約20カ国に日本酒「東光」を輸出する小嶋総本店(米沢市)の小嶋健市郎社長(42)は円安による追い風を感じつつ「円安の背景にある各国中央銀行の利上げが景気後退につながれば、嗜好(しこう)品が売れなくなるリスクもある」と懸念も示す。

東北の食を売り出す好機 七十七R&C・田口庸友首席エコノミスト

 なぜ円安が急速に進み、東北経済にどんな影響があるのか。七十七リサーチ&コンサルティング(仙台市)の田口庸友首席エコノミストに解説してもらった。

田口首席エコノミスト=2020年

 米国の中央銀行に当たる米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は8月下旬、景気を犠牲にしてでも政策金利を引き上げ、物価上昇を抑える決意を示した。対照的に日銀はゼロ金利政策を続けており、金利の低い円を売り、金利の高いドルを買う動きが加速している。

 もう一つの理由は貿易赤字だ。東日本大震災後、原発を止め、代替の火力発電所を動かすため液化天然ガス(LNG)の輸入が増えている。ドル建て決済のため、円を売ってドルを調達する必要がある。ロシアのウクライナ侵攻で資源価格が高騰し、貿易赤字拡大は一層進んでいる。

 円安は海外向け商品をつくる製造業にはプラスの側面があるが、東北は製造業のウエートが低い。新型コロナウイルス禍でインバウンド(訪日客)も少ない。円高の方が輸入品に対する購買力が上がり、東北経済にとってはプラスだ。

 光明はある。1兆円超の農林水産物輸出額のトップは日本酒などアルコール飲料で、2位はホタテ貝。青森のリンゴを含め、東北はこうした食材の産地だ。今回の円安は、東北の高品質な食材を売り出す好機だ。

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