(389)雁鳴いて大粒な雨落(おと)しけり/大須賀乙字(1881~1920年)
雁(かり)が啼(な)き渡る空から、大粒の雨が降ってきた。まるで雁が雨を落としたかのようだが、雨を落としたのは雲。「鳴いて」のあと、主語が雲に変わり、しかもそれが省略されているのだ。俳句ではしばしばこのような省略と主語のねじれが起こる。省略によって、単なる観察による描写のなかに、作者の瞬間の感覚が生…
関連リンク
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「秀句の泉」は、俳句の魅力を伝えます。執筆は俳人の永瀬十悟さん(福島県須賀川市)、浅川芳直さん(宮城県名取市)、及川真梨子さん(岩手県奥州市)の3人。古典的な名句から現代俳句まで幅広く取り上げ、句の鑑賞や季語について解説します。