保育園選び、大切なのはお行儀より遊び 仙台の保活・幼活事情、幼児教育の専門家に聞いた

来春の保育園・幼稚園の入園に向けた準備が仙台市でも本格化しています。10月に願書の配布が始まり、見学や説明会を経て、11月から利用申込期間となります。市内の現状はどうなっているでしょうか。また、情報収集を進めてきた親でも園選びの決め手に悩む場合もあるのではないでしょうか。幼児教育学を専門とする宮城学院女子大の磯部裕子教授(62)にアドバイスしてもらいました。(編集局コンテンツセンター・佐藤理史)

[いそべ・ひろこ]聖心女子大卒業後、8年間の幼稚園勤務を経て青山学院大大学院博士後期課程修了。2008年から現職。岐阜県出身。
「選ばなければ」入れる
―仙台市は2008年、待機児童が740人と全国の自治体で最悪だったが、今年4月1日時点でゼロとなった。現状は。
「選ばなければ入れる」状況になった。産休、育休も取りやすくなり、産後に慌てて申し込まないと入れない、という状況は解消されてきた。
保育施設(保育所、幼稚園、認定こども園、家庭的・小規模・事業所内の各保育事業)はかなり増えた。市が補助金を通じて新設を後押しした結果だ。
[市内の保育施設数と定員]
2008年=117カ所、1万764人
2022年=421カ所、2万2244人
―「選ばなければ」とは。
市が公開する入所情報を見ると、0、1歳児クラスで空きがある園もちらほらあるが、定員いっぱいいっぱいの園もある。おしなべてゼロということではない。
通うことを考えると、自宅か職場の近くの園を選ぶ親がほとんど。会社が多い中心部はどうしても希望者が多くなる。地域的に見ても、宅地やマンションの開発が進んで人口が急増した太白区の富沢、あすと長町といったエリアは定員いっぱいの状況だ。
待機児童が多かった頃、小規模保育事業所に救われた親は多かった。しかし、選択肢が増えてくれば、できれば認可保育所に預けたいと考える親は少なくない。定員が6~19人と比較的少ない小規模事業所なりの良さはあるが、園庭など設備が充実している認可保育所に希望は流れがちだ。

[仙台市の「隠れ待機児童」]
希望した保育施設に入れなかったのに待機児童に該当しないケースは428人(4月1日時点)。内訳は以下の通り。
①入所できる保育施設の情報を提供したが、特定の保育施設を希望している=188人
②育休中で、保育施設に入所できた時に復職することが確認できない=148人
③企業主導型保育事業を利用している=48人
④保護者が求職活動を休止していることが確認できる=31人
⑤預かり保育の補助を受けている幼稚園を利用している=7人
⑥地方単独保育施策で保育されている=6人

希望者もっと増える
―市内で施設数を増やすという段階は終わったのか。
小規模保育事業所の定員割れが目立っている。市立保育所は民営化方針を転換し、需要が見込めなければ廃止を検討する流れになっている。今後の動向を見ながらにはなるが、施設の新設はそろそろ落ち着いてきたという感じだろう。
―この間、入所希望者は右肩上がりで増えてきた。今後は。
預け先があるなら預けたいというニーズは潜在的にある。2019年10月に始まった幼児教育・保育の無償化も追い風になっている。
施設が増えれば、希望者も増えるのは全国的な傾向。子どもの数は減り始めているのでいつかは収まるが、仙台などの都市部ではしばらく同じ状況が続くのではないか。
ここ数年はコロナ禍の影響で産後の復職をためらう親がいて、入所希望者の増加は頭打ちに見える。ただ、コロナ対策が落ち着きを見せ、また経済的な必要から、共働きする家庭が増えてくれば、もっと希望者は増えるだろう。
[保育需要量の見込み]
「仙台市すこやか子育てプラン2020」によると、保育を必要とする人数は2023年の2万2975人をピークに、24年2万2525人、25年2万2178人と減っていくと推定されている。
情報収集は「見学」を
―園選びの傾向は。
かつてのように一番近いという理由だけで園を選択する親はめったにいない。今は多くの施設を見て歩き、就園前の子育て支援プログラムや園庭開放にも積極的に参加している。子どもの様子を観察し、お母さん同士で情報交換している。
毎日のことなので、基本的に生活圏、通勤圏内の園がリストアップされる。その上で、それぞれの家庭の教育方針に合う園を真剣に探している印象だ。
―教育方針というと。
保育所の指導要領に当たる「保育所保育指針」はあるものの、日本の保育は非常に自由度がある。いい意味で園それぞれの特徴があり、悪い意味では保育の質に幅が生まれている。
英語教育、茶道、水泳などを積極的に取り入れている園もあるし、オーガニックな給食に力を入れている園もある。費用がプラスになっても、そういう園がいいと思うかどうかはそれぞれの家庭の価値観による。
―情報収集はどのようにすればいいか。
一番いいのは見学だ。園長をはじめ、先生たちの雰囲気が感じ取れる。園舎の造り、置いてある物の状態、実際に遊んでいる子どもの表情など、あらゆることが情報になる。子どもに合っていそうかどうかはもちろん大事だが、保護者のフィーリングも大切にしてほしい。
最近は各園のホームページ(HP)が充実し、一通りのことは掲載されているので転居者に便利だろう。ただし、イメージ写真を使っている場合もあり、実際に確認することが大切だ。
―通園バスの園児の置き去り死が昨年、今年と続けて起きて問題となっている。親は防犯や防災を含めた安全対策も気になる。
置き去りについては正直、考えられないことだ。園によって手法はまちまちでも、子どもの出欠や在室状況を確認しないことは有り得ない。必要以上に不安がることはない。
そうはいっても置き去りは国内に限らず起きているので、安全装置を活用していくことになる。その場合も装置に頼り切って、基本動作がおろそかにならないように注意しなければいけない。
事件のあった園を擁護する考えはないが、人的に余裕がない状況であることも現実だ。保育士不足という問題の背景にも目を向け、対策を進める必要がある。
[保育施設に求める要素]
全国私立保育連盟(東京)が8月に公表した「未就学児をもつ親へのニーズ把握調査」によると、保護者は施設選びで「安心・安全の取り組み」「保育方針・内容」などのスペック面を基準にしている。入園後は満足度につながる要素として「先生の質」「風通しの良さ」を挙げ、対人面の信頼関係を重要視する傾向がみられた。

知的好奇心を止めない
―幼児教育学の見地から施設選びのアドバイスは。
幼児期は遊ぶことが絶対的に大事なので、伸び伸びと遊んでいるかどうかをよく見てもらいたい。ぐちゃぐちゃにしか見えなくても、それが子どものあるべき姿と理解してほしい。
逆に、子どもがきちっと座って、行儀良くしている園がある。「お利口な姿」に見えて安心する保護者もいるが、乳幼児期の子どもが整然と並んだり、着席したりするのは、必ずしも適切な姿ではない。何らかの負荷がかかっていると考えられ、必要以上に先生の指示を受け入れている受け身の姿であるとも捉えてほしい。
―伸び伸びと遊ぶと、どのようないいことがあるか。
遊びは五感で学ぶ経験だ。環境としては広大な自然とは言わないが、小さくても庭があって土、水、草、虫などに触れられるのがいい。写真や絵で草花を見て学ぶより、実際に見て触れて匂いを嗅いで本物を知ることが重要だ。
幼児期に体で学ぶ経験をしておくと、自然と身の回りに疑問が浮かんで、自分で答えを探ることができる。小学校以降で、教科書を通じた間接的、体系的な学びが始まった時の土台になる。知的好奇心を止めないことが幼児期の教育の重要な要素と考えられている。
[仙台市子供未来局認定給付課から]
「小規模保育事業所は比較的少人数で、きめ細かい対応が望める。3歳卒園後も連携施設の優先利用や調整指数の加点により、ほとんどの人が希望した施設に移行できている。通える範囲で幅広く、小規模事業所を含めてできるだけ複数の希望を出してもらいたい」
「申し込みの方法などを解説する動画をユーチューブの市公式チャンネルで公開している。分からないことがあれば、各区役所保育給付課の窓口や、各区2人(太白は3人)いる保育サービス相談員に気軽に問い合わせてほしい。申込期間の終盤は窓口が混み合うので、余裕を持って申し込んでもらいたい」
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