県民会館移転、跡地のたなざらしを地域が懸念<Re 杜のまち 仙台・定禅寺通(下)>
うわさを耳にしたのは昨年の秋だった。
「宮城県が土地を取得したようだ」。仙台市青葉区の東京エレクトロンホール宮城(県民会館)北東の隣接地。赴くと、駐車場だった約1200平方メートルの敷地が奇麗に整地されていた。
県民会館は老朽化などを理由に、宮城野区の仙台医療センター跡地に2028年度にも移転する。県の担当課に問い合わせると、県が隣接地を取得し、資材搬出入の際のトラック駐車場などとして当面利用することが分かった。
今年初め、河北新報が取得の事実を報じ、県民会館跡地がクローズアップされた。村井嘉浩知事は1月4日の記者会見で、30~40年後に必要となる仙台中央署の建て替え用地として跡地と、中心部に多い市有地の交換を仙台市に求めたことを明らかにした。
郡和子市長は同月10日の記者会見で村井知事との意見交換を認めた。ただ「定禅寺通は仙台駅前と並び、重要な地域」と述べるにとどまり、交渉段階にないとの認識を強調した。
中央署の建て替えはまだ先だが、県民会館の移転は最短で約5年後。跡地がたなざらしにされる期間が長引くほど、まちに及ぼすマイナスの作用は大きくなる。
こうした影響を回避しようと地元のまちづくり団体は活動を続けていた。
昨年9月、市主催のワークショップに足を運んだ。テーマは定禅寺通の再整備。周辺事業者、まちづくり団体関係者ら約20人が参加した。
市は、県民会館前の中央緑道に音楽活動に使うステージを造ると提案した。完了予定は27年度。移転よりも1年も前だ。
「跡地利用が決まってから考えるべきだ」「緑道の位置付けよりも人を呼べるコンテンツが重要だ」
かみ合わない議論にもどかしさを感じた。会場には地権者である県の職員の姿は見られなかった。
住民が置いてきぼりになるシーンに既視感がある。2000人規模のホール建設を巡り、17年末からやりとりを続けた村井知事と郡市長は、県と市の意思疎通の乏しさや二重行政の批判を指摘されながら、それぞれ構想実現にひた走った。
まちづくり団体は22年4月に郡市長、同5月に村井知事に直接、跡地利用の要望書を手渡した。強く求めたのが、住民の意見を踏まえた検討と移転後の速やかな跡地利用の実現だった。
要望した一般社団法人定禅寺通エリアマネジメント(青葉区)の代表理事氏家正裕さん(51)は「跡地を使わないままでも、使われない施設ができても市民、県民のプラスにならない。みんなで話し合う土壌づくりは今からでも遅くない」と話す。
県と市の連携不足、新会館整備などを優先する行政と跡地のたなざらしを避けたい住民との意識のずれ。県民会館の移転を巡る取材は、まちづくりに重要なポイントをあぶり出したように思えた。
取材を通じ、県民会館や定禅寺通に思い入れのある人はもっといるはずだと感じた。電子メールやファクスであなたの思い出やご意見をお寄せください。今後、公的施設の跡地活用を巡る全国の事例、有識者のインタビューを紹介し「Re」の道筋を探ります。アドレスはre-mori@po.kahoku.co.jp ファクス022(264)2707
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