県民会館の開館で文化浸透、発展をリード<Re杜のまち 仙台・定禅寺通(中)>
「県の文化行政がいかに貧困であったか」。厳しい指摘が目に留まった。
宮城県芸術協会(仙台市青葉区)が1974年に発行した「芸協十周年史」。元理事長の早坂貞彦さん(85)に見せてもらった。
創作の場に活用
64年の東京エレクトロンホール宮城(県民会館、青葉区)の開館前夜。県内の各文化団体に渦巻く不満がつぶさに記されていた。同時に、開館を宮城の文化振興の遅れを取り戻すチャンスにしようとする意気込みが伝わってきた。
例えば芸術祭。63年、洋画、日本画、音楽、工芸など各団体の代表者13人が集まり、その中の1人が当時の県議会議長に開催を直訴した。回答が届いたのは5カ月後。県教委は予算不足を理由に県主催を拒んだ。
13人が中心となり県芸協を設立。民間の資金をかき集め、開館から2カ月後、県民会館などを会場に、6部門による初の県芸術祭の開催にこぎ着けた。
高校教員になりたてだった早坂さんは、絵画部門の準備、運営に当たった。「当時は政治の問題を自分ごとと捉える時代。さまざまな文化、芸術ジャンルの人たちが時代を変えようと一つになった」と懐かしむ。
開館翌年の65年、県民会館の会議室などで講習会が始まった。絵画、書道、短歌、俳句、美術鑑賞など、県民の学びや創作の場として活用されてきた。
絵画サークル「けやきの会」の集まりが1月16日にあると聞き、見学させてもらった。9人が熱心にデッサンに取り組んでいた。
85年から活動を続けるが、2028年度の県民会館移転後は未定という。跡地利用の希望を聞いてみた。「文化活動を続けられる環境ができるとうれしい」との意見に、多くのメンバーがうなずいた。
会長の伊藤芳子さん(85)は「ケヤキ並木があり、広瀬川も近く、絵画、文芸といった創作に最適な仙台らしい場所。交通の便も良い」と語る。
住宅街から変化
芸術文化のイメージの定着した定禅寺通だが、約60年前のまちはどんな様子だったのだろうか。
河北新報社の資料室に、建設途中の写真が残っていた。撮影は1963年7月。並木のケヤキはまだ若く、2階ほどの高さしかない。
近くで生まれ育った青葉区の佐藤晶洋さん(71)に当時の話を聞いた。「昔は小さな民家がひしめく住宅地だった。県民会館ができてからビルが建ち始め、昭和40年代にみるみるまちが変わっていった」と振り返る。
住宅街から文化芸術のまちへ、定禅寺通のランドマークとして発展をリードしてきた県民会館。跡地を巡り、地域の人たちは、ただ手をこまねいているわけではなかった。
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