週1だけの開店も 買えたらラッキー? 「レア営業」のパン屋さん5選【特集】
週1~3日だけ、または不定期で営業する小さなパン屋が宮城県に増えてきた。店主が材料を吟味し、心を込めて少量ずつ焼き上げるパンはどれも絶品。「買えたらラッキー」と言われる流れ星のような5店舗を紹介する。
地元の素材で丁寧に―パン菓子工房oui(ウィ)《南三陸町》水・金・土曜営業
宮城県南三陸町産スギを用いたかわいらしい建物に、パンのイラストが描かれた白いのれんがはためく。「パン菓子工房oui」は週3日だけ、地元素材で丁寧に作ったパンを売り出す。
一番人気のふんわりもっちりした食パンの他、あんこや地元野菜・果物を使った菓子・総菜パンなど25種前後が並び、どれも素材の味が生きている。小麦粉は店の前の畑で育てた「ゆきちから」や、北海道・岩手など国産に限定。酵母は季節の果物を用いた自家培養と、ホシノ天然酵母を使い分ける。年配者が多い地元客の好みに合わせ、フランスの田舎風パン「カンパーニュ系」でも比較的ソフトな口当たりだ。
店は東日本大震災のボランティア有志による「NPO法人ウィメンズアイ」が2017年にオープンさせた。ボランティアで南三陸を訪れ、今は経営を担う栗林美知子さん、結婚を機に町に移住した佐々木千尋さんと菅原千秋さんの3人で切り盛りする。
営業日が少ないのは、仕込みの日やシェア工房として店を貸し出す日があるから。栗林さんは「工房から独立してパン店を開いた人もいるんですよ」と語る。
宮城県南三陸町入谷桜沢421-1
営業日時/水・金曜11:00〜15:00、土曜10:00〜14:00
TEL 0226-25-9517
駐車場/1台
予約/可
取り寄せ/通販サイト「うみさと工舎」で可。ウィのお試しパンセット(送料込み2500円)は定番商品、季節限定商品から7種前後をお任せで。宮城県内へは常温便で発送
店主はイラストレーター―パン りんご亭 《青葉区》土・日曜営業
優しい絵が人気のイラストレーター栗城みちのさん。2021年1月に食事パンの専門店を開き、「パン屋店主」との二刀流に挑んでいる。
小さな陳列棚に定番や土曜と日曜それぞれの「曜日限定パン」、季節限定品などが並ぶ。2日間に焼くのは二十数種。どれも砂糖や乳製品、油脂を入れず、麦の風味をシンプルに引き出す。種類によって2つの自家培養酵母を使い、粉は国産小麦を中心に全粒粉やライ麦、時に秋保産そば粉なども加わる。
人気のカンパーニュは酸味を抑え、火の入れ方も加減して食べやすい。密度が高く、焼く前の重さで約540g。どっしりむっちり、かみしめるほどに深い味わいと香りが広がる。栗城さんは「和洋あらゆる料理の味を引き立て、サンドイッチにしてもおいしい。腹持ちがいいと言われます」と説明する。
もともとパンが好きで、ホシノ天然酵母の教室を受講した後、独学でレーズンやライ麦で酵母を自家培養し、パン作りを追求してきた。郊外の店舗であり、無理なくイラストレーターと兼業できるよう、週末限定の営業にしている。
仙台市青葉区熊ケ根壇の原2-13-2
TEL 022-738-9269(土・日曜とも作業が終わる14:00以降問い合わせ可)
Eメール/pan.ringotei@gmail.com
営業日時/土・日曜11:00〜17:00
駐車場/2台
予約/不可
取り寄せ/不可
小麦の香りふくいくと―cielo panadería(シエロ パナデリア) 《青葉区》不定期営業
1日に並ぶ天然酵母パンは20 余種。ファンの間で「袋を開けた瞬間もうおいしい」と言われる、北海道産小麦のふくいくとした香りが身上だ。低温長時間発酵で仕込みに2日、時に夜を徹する。全国のファンへの発送、事務なども一人でこなしているのが月に数日の不定期営業の理由だそう。
看板商品は、表面がばりっと香ばしく内側はむっちり、プレッツェルとベーグル両方の食感を兼ね備えた「プレッツェルベーグル」。「他のパン屋さんには売ってないものを作りたくて」と店主の小東淳子さん。
専業主婦だった約20年前、友人の開くパン教室で基礎を習い、独学でさらに腕を磨きながら家族のために焼いてきた小東さん。子育てが一段落したのをきっかけに自宅でパン教室を始め、間借り営業やイベント出店などを経て2021年1月に実店舗を開いた。
開店の1時間前から配布する整理券の順に販売し、売り切れ次第閉店する。ほとんどのパンは冷凍保存できるので、まとめ買いする常連も多い。
仙台市青葉区木町通2-2-52
営業/不定期 ※営業日時はInstagramで告知
駐車場/なし
予約/不可
取り寄せ/お薦めのパンをセットにした通信販売「通パン」を不定期で実施。詳細はInstagramをチェック
酵母の奥深さが魅力―zizo+ベーカリー 《松島町》水曜営業
「知る人ぞ知る」という言葉がぴったりの隠れ家のようなお店だ。民家の脇の店舗兼工房で、営業は週1日、それも2時間だけ。白神こだま酵母や季節の果物を用いた自家培養酵母で作る9種前後が登場し、開店後に焼き上がるパンもある。
「酵母によって味や食感が変わるのが楽しい。同じ酵母でもその日の気候で発酵具合が異なり、焼き上がりが読めません」と店主の里見千穂さんは笑う。
取材日に並んだ「黒豆の丸パン」はプラムから培養した酵母でほんのり甘い生地に仕上げた。国産の強力粉「はるゆたか」と全粒粉「春よ恋」、白神こだま酵母などが原料の食パン「全粒粉ブレッド」は滋味深く、力強さを感じる。
福島県出身の里見さんは結婚後、夫の実家のある松島町へ。仙台の教室でパン作りを学び、酵母の奥深さに魅せられた。「松島で楽しいことをしたい」と2014年、暮らしていた建物を改装して開業。仕込みや家族の介護もあるため、現在は週1日の営業で精一杯という。それでも「パン屋を続けることが張り合いになります」とファンとの交流を楽しみにしている。
宮城県松島町幡谷地蔵2-7
営業日時/水曜15:00〜17:00ごろ ※売り切れ次第終了
駐車場/2台
二足のわらじで修業中―あくつさんち 《青葉区》土曜+火曜不定期営業
こぢんまりした店内に食事パンやフィリングたっぷりの菓子パン、具だくさんの総菜パンがずらり。焼き菓子を合わせて30種以上のラインアップは毎週替わり、訪れるたびに発見がある。
店主の阿久津和樹さんは薬剤師。2021年8月に店をオープンさせ、二足のわらじを履く。薬学部時代に趣味でパンを焼き始め、イーストや天然酵母など“生き物”の力を借りてばらばらの食材をまとめ上げる魅力にはまった。
レーズン、ホップ、小麦の3種を中心とする自家培養天然酵母やイーストなどのパン種を基に、さまざまな食材と製法に挑戦する。「1回2回では成功せず、一筋縄でいかない。試行錯誤が楽しい」と阿久津さん。取材の日の「食パン」は国産キタノカオリにフランス産小麦を配合し、湯種とミルクポーリッシュ、天然酵母、米こうじを組み合わせ、ゆっくり低温熟成。トーストした時に香ばしさを感じるよう発酵バターと太白ごま油も加えた。
「作ってみたい、食べてみたい」という自身の好奇心が原動力。「修業期間」の今は試作と改良を繰り返して進化を続け、店を開ける日を増やしたいと思い描いている。
仙台市青葉区堤町3-12-16 高橋ビル101
営業日時/土曜10:00から売り切れ次第終了。不定期で火曜も
駐車場/なし
予約/営業日によって可。可能な日はInstagramで告知。営業日の前日正午までメッセージで受け付ける
取り寄せ/可。メッセージで相談を
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Photo by 田附 絢也 (1枚目)
(河北ウイークリーせんだい 2023年2月16日号掲載)
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