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「まるで鳥小屋」学童保育 千葉・松戸 定員超えの詰め込み横行 こんな事態なぜ起きる?

千葉県松戸市での学童保育。雨で校庭が使えなくなると、教室内は、この倍の人数になるという(保護者提供)

 子どもの小学校入学を控えた今、働く親たちを悩ませているのが放課後の預け先だ。多くが利用する放課後児童クラブ(学童保育)では、定員を超えて子どもを受け入れる「詰め込み学童」が横行している。東京新聞「ニュースあなた発」にも、「子どもたちが劣悪な環境にさらされている」との訴えが寄せられた。待機児童対策の裏で起きている子育ての現実を見つめた。(東京新聞・須藤恵里)

待機児童ゼロ…でも施設は飽和状態

 「雨で校庭が使えなくなると一教室に百二十人が詰め込まれる」「子どもに熱が出ても寝かせられる場所がない」。本紙に情報を寄せた掃部関(かもんぜき)和美さん(64)は、支援員として働く千葉県松戸市の学童保育の実態を打ち明けた。

 松戸市では現在、約四千六百人の子どもが学童を利用し、待機児童はゼロ。年々増える希望者を全て受け入れ、多くの施設が飽和状態だ。市子育て支援課の担当者は「学校に協力を仰いだり、民間の空き物件を探したりしているが、対応が追いつかない」とこぼす。

 学童保育も、保育園のように国が運営基準を定めている。定員は1クラス「おおむね40人以下」。ただ、参考扱いで義務ではない。市の担当者は「基準はクリアすべきだが、働く親たちのために受け入れたい。かといって、すぐに施設を増やせるわけでもなく…」とジレンマを抱える。

 全国学童保育連絡協議会(全国連協)の2022年度調査によると、「40人」の基準を超えて受け入れた「詰め込み学童」数は全国で約1万2000クラス、全体の36・3%を占める。

けがや事故増え、ささいなことでけんかに

 表向きは待機児童が解消していても、受け皿が足りていない状況では子どもたちが詰め込まれるだけだ。全国連協・事務局次長の佐藤愛子さんは「詰め込みは、けがや事故が増えたり、ささいなことでけんかになったりして子どもへの負担は大きい」と指摘する。

 学童施設を見学したことのある川崎市の母親(43)は「子どもが両手を広げられないほどギュウギュウで、まるで鳥小屋だった」と振り返る。小2の長男を学童に預ける東京都練馬区の母親(51)は「事故が起きないか不安だが、働くために預けざるを得ない」と語る。

 岸田政権が打ち出す「異次元の少子化対策」では、学童を含めた保育サービスの拡充も挙がる。共働きで子どもを学童に預けている大田区の佐々木真平さん(43)は、「子どもを安心して預けられる場所があってこそ、子どもを産み育てようと思う。子育て環境の整備なしに少子化対策は進まない」と話す。

子ども減っても利用数右肩上がり

 学童保育は、学校の空き教室や児童館などを使い、自治体や保育系企業などが運営し、保護者自らが開いているところもある。

 共働き家庭の増加で、学童保育の利用数は右肩上がりで増えている。厚生労働省によると、2022年5月1日時点で、139万2158人に上る。待機児童は1万5180人で、過去8年間で一度も、1万人を割っていない。

 施設不足とともに壁となっているのが、子どもの相手をする支援員集めだ。全国連協の調べでは、週20時間以上勤務する支援員のうち、6割が年収200万円未満。人材確保には、保育士と同様、支援員の処遇改善が課題となっている。

 厚労省は待機児童を解消するため、19年度からの5年間で学童の受け皿を30万人分増やす計画を進めているが、昨年5月時点で達成率は5割ほどという。

 全国連協の佐藤愛子事務局次長は「社会の関心は待機児童解消に集まりがちだが、そのために詰め込みになっては本末転倒。支援員の処遇改善も重要だ。適正な人数で子どもたちが安心して通える受け皿を整備してほしい」と訴える。

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