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「しもつかれ」は県民食ではない? 栃木・足利市民「ピンとこない」理由は

 「しもつかれが県民食(郷土食)と言われてもピンときません」。下野新聞「あなた発 とちぎ特命取材班」(あなとち)に、栃木県足利市の男性からこんな意見が寄せられた。聞けば「しもつかれを食べる習慣がない」という。「しもつかれ」は、栃木県内どこでも食べる郷土食ではない?

しもつかれの調理実演が行われた「しもつかれ博」=2月、宇都宮市内

 「しもつかれ」は農水省の「郷土料理百選パンフレット」にも掲載されている栃木県を代表する料理。好き嫌いや食べる頻度の差はあれ、県民が“親しみ”を感じているはずだが…。

 「足利はしもつかれを食べる地域ではありません」。県立博物館の篠崎茂雄(しのざき・しげお)人文課長が明快に答えた。県教委は2021年から大規模な「しもつかれ」調査をしているが、足利市の回答は「食べない」だった。「昭和40年代の調査でも足利は同様です」(篠崎課長)。

 足利市教委に尋ねると「佐野市と隣接した地域などでは食べるが、足利市全域なら『食べない』といえる」とのことだった。

調理法や分布などさまざまな分野からしもつかれの謎に迫った「しもつかれ博」=2月、宇都宮市内

鬼怒川と関係か

 なぜ食べないのか-。篠崎課長は県内外のしもつかれ分布図を指しながら「茨城や埼玉などでも鬼怒川流域で食べられていることが調査から分かった」とし、鬼怒川との関係に着目する。なるほど、鬼怒川と足利市は遠い。また足利市教委も言葉や食文化の違いを示し「文化圏が異なるからでは…」という。

 地理的な条件と文化の違いがあって普及せず、足利市民には「しもつかれ=郷土食」という意識がない、と言えそうだ。

 県教委の調査に「食べる」と回答した地域でも「サケや大豆などを用意して作るのは面倒」「見た目やにおいが苦手」、「おいしくない料理らしい」などという理由で食卓に上る回数や量は減っているようだ。しもつかれは消えてしまうのだろうか。

佐野市は例年、初午祭近くの時期の学校給食で、しもつかれを提供している=3日、佐野市田沼小

学校給食が一役

 こうした中、しもつかれの継承に大きな役割を担っているのが学校給食だ。下野新聞社の調べでは、足利市を除く24市町は2~3月にしもつかれを提供した。

 佐野市田沼町の風物詩・初午(はつうま)祭でにぎわった3月3日、同市田沼小(282人)の給食に提供され、その由来が校内放送で流された。サケのフレーク、大根、少量の酒かすとみりんなどを使い、甘めの味付けのしもつかれを児童たちはおいしそうに食べていた。

 4年の横田莉子(よこた・りこ)さんと加藤陽菜(かとう・ひな)さんは「食べやすくて、おいしい」と笑顔を見せる。同川村駿斗(かわむら・はやと)さんは好物ではないが「すっきりとした味で食べられる」と話す。「給食のしもつかれは良い思い出がない」と聞いたことがあったのに驚きだ。

おいしそうに学校給食のしもつかれを食べる児童=3日、佐野市田沼小
佐野市田沼小で提供された給食。左上がしもつかれ

 佐野市南部学校給食センターの小林恵(こばやし・めぐみ)栄養教諭は「伝統的なものとは違うかもしれないが」と前置きした上で「しもつかれというものを知ってほしいという思いで年1回提供する。歴代の関係者が工夫しながらおいしい味にしていった」と話す。

 原型が千年前にさかのぼると言われる、しもつかれ。篠崎課長は「食材や味付けなどこれまでも変化をしてきた。今後も変化をしながら続いていくだろう」と話す。変化し進化する懐の深さが伝承の鍵なのかもしれない。(下野新聞)

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