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土地相続した途端にダイレクトメールの嵐 業者がなぜ? そのからくりとは

 「父から遺産相続した土地の登記を完了した途端、不動産会社から、売却などを勧めるダイレクトメール(DM)が来るようになった」。こんな投稿が、西日本新聞「あなたの特命取材班」に寄せられた。投稿者は、大切な個人情報が広まっていることに強い不安を抱く。調べてみると、専門家が“法の抜け穴”とも指摘する手法で、不動産会社が営業情報を得ていた。(西日本新聞・竹中謙輔)

 2年前、投稿者は亡父の土地を相続し、福岡法務局に相続登記した。複数の不動産会社からDMが届くようになったのはその後だ。どの文面も遺産相続を把握して、土地の利活用を勧める内容だった。投稿者は「あまりにもタイミングが良すぎて気持ち悪かった」と話す。

 DMを送った都内の大手不動産会社に問い合わせたが、「営業に関することなので答えられない」と説明を拒否。福岡市のある不動産会社は「法務局に開示請求すれば手に入る。その情報も広く売られている話も聞く」と明かした。

 日本登記法学会理事長で九州大の七戸克彦教授(民法)が、法務局の「受付帳」の存在を教えてくれた。

記者が開示請求した「受付帳」。日付順に並び「所有権移転遺贈」などの変更理由が確認できる(住所部分を修正しています)

 受付帳とは不動産登記規則に基づき、全法務局で備える資料。記者が福岡法務局に受付帳の開示請求を行うと、日付順に「所有権移転相続」など変更理由と該当の土地・建物の住所が記されていた。法務局内で、登記内容の確認などに使うものだ。七戸教授は「企業の来客確認用の受付帳と同じような扱い」と例える。

 この受付帳が「行政文書」に該当することから、開示請求で誰でも入手ができる。受付帳には所有者名の記載はないが、住所を基に登記簿を申請すれば、相続人は簡単に把握できるわけだ。これが、不動産会社による入手のからくりだった。

 総務省によると、受付帳を対象とした2020年度の開示請求は全国で約8万6千件に上るという。

 法務省は「受付帳を使った営業DMは把握している。情報公開法に沿って開示手続きをしているとしか言いようがない」と答えた。

法務局「受付帳」公開の可否 専門家も意見割れる

 全国の法務局が不動産登記の更新状況を業務上まとめた「受付帳」。行政文書として情報公開請求の開示対象となるが、今後も継続すべきか、専門家の意見は割れている。

 そもそも土地や建物の所有情報が載った登記簿は円滑な不動産取引のため、法務局に行けば誰でも入手できる。不動産登記は、個人情報保護法の適用除外になっている。ただ、不動産登記法では、登記簿の付属書類の閲覧に一部制限がある。4月1日から「正当な理由があるとき」といった制約が追加され、さらに閲覧しづらくなる。

 一方で受付帳は、不動産登記法の登記簿の付属書類には含まれていない。法務局の作成資料のため、情報公開法に基づいて開示されるという“ねじれ”が生じている。

 数年前からメディアでもこの問題が取り上げられるようになり、2021年11月の日本登記法学会の大会でも話題に上がった。

「あなたの特命取材班」には「相続後にDMが多数届く」との投稿が複数寄せられている(投稿者提供、一部修正)

 立命館大の松岡久和教授(民法)は「(業者からのDMは)気持ち悪さを感じるが、公開情報なので、利用停止などを主張するのは難しい」と指摘。あくまで、受付帳は一般行政文書の開示ルールに従うしかないといった考えだ。

 この研究大会にも参加した平成国際大の小西飛鳥教授(民法)は「所有権移転は保護されるべき個人情報だろう。個人情報保護法で、登記簿の付属書類で設けられているような制限ルールが必要かもしれない」と主張する。

 九州大の七戸克彦教授も制限が必要との立場だ。「法務省所管の不動産登記法の範囲内で対処するとしたら、受付帳の書式の事務的な見直しが考えられる。外部の人からは特定できない番号管理をベースにするのがベストだ」と提案する。

 ドメスティックバイオレンス(DV)被害者の住所の閲覧を制限する特例が新設されるなど、来年4月に改正不動産登記法が施行。必要性に応じ、不動産の個人情報を制限していく流れもあるが、受付帳の在り方について法務省は「まだ見直し議論の議題にはなっていない」としている。

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