「自立望む女性の心に刺さった」 上野千鶴子さん、中国でブームに
「社会学者の上野千鶴子さん(74)が今、中国でブームと聞いた。実態や背景が知りたい」。西日本新聞「あなたの特派員」にそんな声が寄せられた。日本の女性学やジェンダー研究の先駆者で、性差別からの解放を目指すフェミニズムをけん引してきた上野さんが、家父長制的な価値観が根強く残る中国で人気なのはなぜか。探ってみた。(西日本新聞・坂本信博)
「上野千鶴子の新傑作『快楽上等!』入荷しました」。4月上旬、北京市内の書店の掲示板に中国語で書かれていた。2012年に出版された上野さんと著述家の湯山玲子さんの共著「快楽上等! 3・11以降を生きる」の中国語版。店内の売り上げランキングでは2位だった。
中国最大の書籍や映画のレビューサイトでは、22年の「ブックオブザイヤー」の1位に上野さんと作家の鈴木涼美さんの共著「往復書簡 限界から始まる」の中国語版が選ばれた。上野さんの著作は昨年だけで7冊も翻訳・出版された。
少子高齢化が重要課題となっている中国。介護やケアにも研究領域を広げた上野さんの著作「おひとりさまの最期」は、中国国家図書館の賞も受けている。
今年2月には、北京大出身の中国人の30代女性3人と上野さんがフェミニズムについて語り合ったオンライン対談が中国の大手動画配信サイトで公開されて再生回数は290万回を超えた。共感や論考の投稿が交流サイト(SNS)で相次ぎ、大反響を呼んだ。まさに上野千鶴子ブームだ。
中国のメディア関係者によると19年春、東京大名誉教授の上野さんが東大入学式の祝辞で社会に横行する性差別に言及したのがきっかけ。「頑張ってもそれが公正に報われない社会があなたたちを待っています」「フェミニズムは弱者が弱者のままで尊重されることを求める思想です」とのスピーチの動画がSNSで拡散され、支持を集めた。
北京の女性会社員(33)は「超学歴社会の中国で幼いころから激しい競争にさらされてきた若い世代、自立を望む傾向が強まった女性の心に、彼女の言葉と生き方が刺さった。女が男のようになる必要はないと教わり、救われた」と語る。
中国では、「建国の父」毛沢東が「女性は天の半分を支える」と語り、教育・労働・賃金の男女平等が進められてきた。都市部では多くの家庭が共働きだが、儒教の価値観に基づく「男尊女卑」の風潮は根深い。習近平指導部を構成する共産党政治局員(24人)に女性はゼロ。性暴力を告発する「#MeToo」運動への抑圧も強まっている。
北京のメディア関係者は「国内の作家がフェミニズムの書籍を出版するのは容易ではない。外国の著名な学者である上野さんのメッセージが共感と連帯を生んでいる」と話した。「一人っ子政策」の影響などで高学歴化し、結婚を選択しない女性も増えた。22年の婚姻率は1978年以降で最低を記録しており、「フェミニズムの高まりと非婚傾向を警戒する当局は苦々しく思っているだろう」と言葉を継いだ。
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