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発掘!古代いしのまき 考古学で読み解く牡鹿地方 > 陸奥海道地方最大の須恵器生産地 1

現在の須江瓦山窯跡付近。正面の林、左手の山林の地中に須恵器窯跡が遺存している
須江窯跡群瓦山窯跡の位置と出土した平瓦、丸瓦(瓦は「石巻文化センター調査研究報告第5号」より)

【東北学院大博物館学芸員・佐藤敏幸氏】

第5部 律令国家の蝦夷支配と軋轢

<謎多い遺跡「瓦山窯跡」>

 古代石巻地方の大窯業生産地、須江窯跡群(すえかまあとぐん)についてのお話です。全国に「須恵」「陶」「須江」「須衛」など「すえ」という地名の付くところがありますが、古代・中世に須恵器(すえき)や陶器を焼いた窯場が由来になっている所が多いようです。石巻市須江もその一つに数えられます。

 石巻平野の中央に南北に横たわる標高90メートルほどの須江丘陵は、南北約4.5キロ、東西約1・3キロの独立した丘陵です。北端の北上川に接する石巻市須江糠塚地区から南端の関ノ入地区まで、この丘陵全体に古代の須恵器や屋根瓦を生産した窯跡が分布します。

 これが須江窯跡群で、これまで北端の須江糠塚遺跡、中央の瓦山A窯跡、細田遺跡、南部の代官山遺跡、関ノ入遺跡が発掘調査されています。調査の結果、奈良時代後半(8世紀後半)から平安時代前期(10世紀前半)まで継続して須恵器が作られた、東北を代表する須恵器生産地であることが分かっています。

■古代の瓦が出土

 須江窯跡群で最初に窯がつくられたのは、須江丘陵中央西寄りの瓦山窯跡です。瓦山窯跡は古くから古代の瓦が出土することで著名で、1936年には元東北大名誉教授の伊東信雄さん、古代瓦研究の第一人者であった元玉川大教授の内藤政恒さん、地元の考古学愛好家であった遠藤源一さん、毛利総七郎さんが遺跡を訪れ紹介しています。

 その紹介によると瓦山窯跡には「上窯」と「下釜」と呼ばれる地区があり、両地区に窯があったと記されています。さらに、西端北側にある「矢島一郎氏宅」(現矢島道智さん宅)付近が「上窯」で、32年頃矢島氏付近の畑から窯跡が1基発見されたと書かれています。正式な発掘調査ではなかったので、その他の記録は遺っていません。

 60年代以降、石巻の高校の生徒が発掘したり、自衛隊松島基地の隊員が調査に訪れたりしましたが、記録は残されていません。出土した瓦については、元石巻高教諭の三宅宗議さんが矢本町史などで紹介しています。

 2000年代以降には、瓦山地区にある東北電力の変電所増設工事に伴って発掘調査が行われましたが、古代の瓦生産に関係する遺構は発見されませんでした。

 謎の多い瓦山窯跡ですが、その出土品は1998年に開催された石巻文化センター企画展『古代の瓦-東北の役所と屋根瓦-』で展示公開されたり『河南町史』『石巻の歴史』で紹介されたりしています。

 瓦山地区在住の矢島道智さんの所蔵する瓦を見せてもらったところ、凸面縄叩(たた)き(板に縄を巻き付けて叩いた跡)で凹面に布目の残る平瓦と粘土紐巻き造りで凸面縄叩き、凹面に布目の残る無段の丸瓦でした。

 瓦山出土の特徴を持つ瓦は、国府多賀城跡からは見つかっていません。また、軒瓦(軒先を飾る模様のある瓦)は発見されていません。瓦の作り方や瓦と一緒に出土したとされる須恵器の特徴から、奈良時代後半(8世紀後半)頃のものと考えられています。

■屋根瓦はどこに

 さて、瓦山窯跡で生産された屋根瓦はどこに運ばれたのでしょうか。

 古代の瓦は寺院や宮都、地方の役所跡の主要建物といった、特別な建物の屋根に葺(ふ)かれるものです。瓦山窯跡出土の瓦と同じ瓦が出土しているのは、牡鹿柵(おしかのさく)・牡鹿郡家(ぐうけ)(郡の役所)である赤井官衙(かんが)遺跡だけです。それも、赤井官衙遺跡の中でも郡の長官クラスの道嶋(みちしま)氏の居宅と考えられている館院(たちいん)1地区から集中して出土しています。つまり、赤井官衙遺跡にいた道嶋氏が自分の居宅の屋根を葺くために須江窯跡群瓦山窯跡で焼かせたものなのです。

 瓦や須恵器は専門の技術を持った職人しか作ることができませんから、瓦・須恵器工人を遠くの生産地から招聘(しょうへい)したと考えられます。古代律令国家は法制度が確立しているので、国家事業の国府や寺院の建設や改修に工人が招聘される場合がほとんどです。

■工人の招聘は稀

 地方豪族が自分の邸宅のために工人を連れてくることは極めて稀(まれ)なことです。瓦山窯跡が生産を開始する8世紀後半は、中央で藤原仲麻呂(ふじわらのなかまろ)の乱=天平宝字8(764)年=で道嶋嶋足(みちしまのしまたり)が活躍し、道嶋氏が東北随一の氏族になった頃です。瓦・須恵器工人の招聘は東北一の豪族となった道嶋氏だからできたことかもしれません。

 須江窯跡群の窯業生産の始まりである瓦山窯跡は、まだまだ謎が多い遺跡です。今後の研究に期待したい遺跡の一つです。

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