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わいどローカル編集局 > 蛇田(石巻市)

布施辰治の座右の銘が刻まれている顕彰碑。「生きべくんば民衆とともに 死すべくんば民衆のために」。毎年9月に碑前祭が開かれている=石巻市あけぼの南公園

「わいどローカル編集局」は石巻地方の特定地域のニュースを集中発信します。10回目は「石巻市蛇田」です。

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田園から新興住宅地へ

 蛇田の地名の由来は「日本書紀」に記述されている「田道将軍伝説」や、江戸時代に書かれた安永風土記の「大きな瓜(うり)伝説」など、蛇が関係する複数の説がある。「石巻の歴史」によると、かつては大瓜、南境の他、旭町、水押一帯の地域から山下、穀町など広範囲に及んでいたとされる。

 1955年に石巻市と合併するまでは蛇田村として豊かな田園地域として栄え、高度経済成長期を迎えると向陽町が完成。市営住宅の建設などが進み、ニュータウンとして注目されるようになった。

 その後も、三陸沿岸道周辺に商業施設などが立ち並び、東日本大震災では津波被害がなかったため、被災者の集団移転地となり、人口が急増。医療施設や公的機関の移転も増えた。

 復興が進む中で、新たな住所で呼ばれる地域も目立つ。現在は蛇田、茜平、あけぼの、あけぼの北、あゆみ野、向陽町、新境町、のぞみ野、丸井戸、恵み野、わかばが蛇田地区と呼ばれ、1万828世帯、2万3682人(8月末時点)が暮らしている。

 のぞみ野1丁目の前町内会長、佐々木茂太郎さん(83)は「震災後に築いてきたコミュニティーが、新型コロナウイルスの影響などを受けたが、最近は行事が復活しつつあり、交流の場が増えてきた」と話す。

 今後の地域づくりについては「新蛇田という一つの地域として住民同士の交流はこれからも大切。人と人がつながる場がもっとあるといい」と語った。

弱者に寄り添った弁護士・布施辰治の功績、古里から発信

布施 辰治氏

 石巻市あけぼの2丁目のあけぼの南公園には、同市蛇田出身の弁護士布施辰治(1880~1953年)をしのぶ顕彰碑がある。93年に建てられ、市民団体などが、命日の9月13日前後に「碑前(ひぜん)祭」を毎年開き、市民に功績の大きさを伝え続けている。

 布施は戦前日本の植民地統治時代に、独立を訴え拘束された朝鮮の人々の弁護を無償で引き受けるなど、常に弱者に寄り添った。100年前の関東大震災時は流言により、朝鮮人や労働運動家らが虐殺される事件を調査。真相究明に奔走した。

 韓国では功績をたたえる映画が制作され、2004年には、自主独立に貢献したとして、日本人で初めて韓国政府から建国勲章を授与されているが、日本ではあまり知られていなかった。

 18年に仙台の劇団が布施の活躍を舞台にし、石巻市内で上演するなど、近年は業績を振り返る機会が増えてきた。

 当時、布施役を演じた三條信幸さん(72)=同市二子3丁目=は「困った人にどう手を差し伸べるべきかを教えてくれる存在。地元に記念館が誕生し、多くの人に素晴らしさが伝わってほしい」と願いを語った。

安心のまち目指し52年、 向陽町1~4丁目の町内会「新栄会」

新栄会の歴史や行事の写真などが収められている記念誌

 1966年に「蛇田ニュータウン」として土地の造成が始まった向陽町。水田地帯が整備され、住宅の建設や人口増加が進んだ。2021年に50周年を迎えたのが、1~4丁目の町内会組織「新栄会」だ。21年に発行した記念誌には、結成した70年からの歴史や、地区内で開いたイベントの写真などが収められている。

 新栄会は「安心して暮らせる環境づくり」を掲げる。夏祭りや運動会、公園の清掃活動など、住民同士が顔を合わせやすい機会をつくり、外国人も溶け込みやすいエリアになった。

 東日本大震災直後には炊き出しや自衛隊からの物資の供給をスムーズに行うなど、日頃から取り組む防災訓練の効果が発揮された。

 「向陽町音頭」などを手がけた主婦本川郁子さん(89)=向陽町2丁目=が作詞作曲した、新蛇田地区を盛り上げる祭り歌「新蛇田音頭」も誕生。盛り上げの取り組みは近隣地区に波及する兆しもあるという。

 石巻市によると、8月末現在で新栄会のエリアには1247世帯、2638人(8月末現在)が暮らす。

 今後の地域活動について小野信男副会長(75)は「人口に対し、住民が集まれる場所が少ない。少子高齢化も進み、交流の機会も限られるので、地域独自の取り組みでコミュニティーを維持、発展させたい」と思いを新たにする。

古き良き家具の温かみ、アンティークギャラリーK(恵み野6丁目)

木目調の家具や雑貨が並ぶ店内

 石巻市恵み野6丁目にある、アンティーク家具やおしゃれな雑貨が飾られた骨董(こっとう)品店。

 石巻市蛇田の総合建設業「櫻工房」社長の伊藤健一さん(64)によるアンティーク事業として設立。2022年3月の宮城・福島沖地震によって家具の破損などの被害が大きく、山下町2丁目の本店は休業中。8月4日に恵み野店が再オープンした。

 店内はアンティーク家具や手頃な価格の雑貨などを展示形式で並べており、伊藤さんが英国や東京の卸売業者から仕入れているという。近年では写真映えすることから若い世代にも注目が集まっている。

 担当者はアンティーク家具の魅力について「もう作られていないデザインや木材のものが多く、人の手によって丁寧に渡ってきたもの特有の温かさがある」と語る。統括マネージャーの船山周一郎さん(56)は「ぜひ一度訪れて、アンティーク家具の魅力に触れてみてほしい」と話した。

 営業は午前10時から午後5時。定休日は水、木曜。連絡先は0225(24)6097。

古民家の模型に熱中、丸井戸の木村さん

新作の清水寺のこだわりを話す木村さん

 「自分の趣味で喜んでくれる人がいるのはうれしい」。石巻市丸井戸1丁目の木村栄一さん(82)の手がけた古民家などの精巧な模型が、展示会で多くの市民の目を楽しませている。

 電気水道会社の社長だった5年ほど前から、制作をスタート。すだれを分解して作ったかやぶき屋根が特徴の「南部曲家」は内装のたたみや掛け軸も自作し、細部までこだわる。

 会社の会長になってからも作業に熱中。新作の「清水寺」を6月に完成させた。かやぶき屋根にするなど、オリジナリティーも加えている。

 作品は完成後、行きつけの「ギャラリーカフェ・ヌーン」(石巻市中里6丁目)で公開してきた。10月4日からは清水寺を含めた5点を展示する。「将来的には公共施設などに寄付できたらいい。見て楽しんでもらえれば一番だ」と意欲を見せる。

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 今回は小笠原新聞店蛇田支店と連携し、大谷佳祐、渋谷和香の両記者が担当しました。次回は「石巻市広渕」です。

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