窮地の伴走者 - 石巻・民間シェルターの活動から (2)声を上げて
<虐待経験者に寄り添う>
「住む場所も戻る場所もない。不安だった」。東松島市の20代女性は妊娠中だった昨年、石巻市のNPO法人「やっぺす」が運営するシェルター「やっぺすハウス」に1カ月入居した。それまでは車中泊などでやり過ごしていたが切迫早産に。入院先のケアワーカーにハウスを紹介された。
実家には頼れない事情があった。幼い頃から「しつけ」として母親から虐待を受けていた。理不尽に怒られ、言い合いになると物を投げられた。血が出るほどのけがは時々ではなかった。それを「まったく普通の家庭だと思っていた」。
中学の時、友人に母親との仲を相談した。その友人の反応で、初めて親子関係が異常なことに気付いた。虐待から逃れようと、思いつくだけの関係機関に支援を求めた。
状況は何も変わらなかった。どの機関も真面目に取り合わず、様子見の態度を崩さなかった。ある相談先では、母親に絞められた首の痕を見せたスタッフに「ひっかき傷だね」と言われた。「もういいや」。女性は人を信頼するのを諦めた。
友人宅に泊まったり近所の公園で野宿したりして母親との接触を避けた。高校からアルバイトを始めて生活費をまかない、母がいない隙を見て自宅に帰った。高校を中退し、18歳で家を出た。
虐待の認知件数は高止まり傾向にある。石巻署は今年、11月末現在で155件、289人の児童虐待が疑われる事案に対応した。そのうち、児童相談所など関係機関に通告したのは169人。近年は約120~200人前後で推移する。
同署生活安全課の佐々木勇治課長は「人口を考えればもっと多くてもおかしくない」と指摘。「虐待が潜在化するよりも、認知が増える状況のほうがむしろ健全だ」と、積極的な相談や情報提供を呼びかける。
女性は退院後、ハウスに入居した。法人スタッフや他の入居者との交流を通じ、他者や社会に対するわだかまりが徐々に溶けていった。「自分のために明るく接してくれて、どん底だった気持ちが前向きになった」
現在は生活保護を受けながら飲食店で働き、法人に紹介を受けた住居で1歳になる子どもと暮らす。仕事と子育てに追われる毎日を過ごすが、いつかネイリストの資格を取るという目標もできた。
女性はかつての自分と同じような境遇にいる人たちを思い「ちゃんと話を聞いてくれる、信頼できる人はいる。その人に届くまで、伝え続けてほしい」と語った。
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新型コロナウイルス禍前の平穏を取り戻しつつある社会で、さまざまな困難の中に取り残された人たちがいる。石巻市内の民間シェルター「やっぺすハウス」には、虐待を受けるなどして住む家から逃れた女性が寝食の場を求めて身を寄せる。施設を運営し、窮地に立つ人を伴走支援する同市のNPO法人「やっぺす」の活動を取材した。(西舘国絵)
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