窮地の伴走者 - 石巻・民間シェルターの活動から (1)家なき人
新型コロナウイルス禍前の平穏を取り戻しつつある社会で、さまざまな困難の中に取り残された人たちがいる。石巻市内の民間シェルター「やっぺすハウス」には、虐待を受けるなどして住む家から逃れた女性が寝食の場を求めて身を寄せる。施設を運営し、窮地に立つ人を伴走支援する同市のNPO法人「やっぺす」の活動を取材した。(西舘国絵)=4回続き=
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<被害女性に住まい提供>
「石巻には住む家にも困る人が多くいる」。やっぺす共同代表理事の高橋洋祐さん(39)が実感を語る。法人は東日本大震災直後から、石巻地方の女性支援に尽力してきた。
ハウス開設のきっかけは2020年冬、石巻市内で働く女性からの相談だった。同居男性から家庭内暴力(DV)を受け、家を逃げ出した。精神的に追い込まれ、働くことも困難になっていた。
法人スタッフが同行して生活保護の申請に向かったが、市役所窓口で「住居が定まっていなければ生活保護は受けられない」と断られた。
「お金も仕事もなくてどうしようもないのに、どうやって住所を定めろというのか」。法人は賃貸住宅を借り受け20年12月、ハウスを開いた。女性はそこに住所を置き、生活保護を受給。数カ月後、精神療養の別の支援機関につなぎ、一般のアパートに移った。
女性のようなDV被害者に対し、市が緊急避難先として市営住宅への入居を認めたケースは21年度が2件、22年度は4件だった。一方で、市とも連携するやっぺすハウスには21年が12世帯、22年は28世帯が入居した。23年も13世帯以上が利用し、満室状態になることもある。「住む家がない」という非常事態が、少なくない市民に降りかかっていることを裏付ける。
入居者が抱える困難は、DVだけでなく虐待、養育放棄、離婚などさまざまだ。ハウスの相談員の支援は多岐にわたる。金銭管理が身に付いていない入居者には買い物に付き添い、離婚調停のため裁判所に同行することもある。
行政の枠組みではカバーし切れず、支援の網からこぼれ落ちる人たちがいる。個々に寄り添い、細やかな支援を積み重ねられるのは、活動範囲に縛りがない民間だからこその強みだ。
高橋さんは「『自己責任』とよく言われるが、支援が必要な人は一人でやっていく余裕をなくしている。どうやって次のステップに進むか、一緒に考える伴走者が必要だ」と訴える。
【やっぺすハウス】
石巻市内の賃貸住宅3棟11室を借りて運営。各棟に数世帯が入居し、シェアハウスの形態で生活する。利用料は原則1日1000円。光熱費や水道代などを法人が負担し、食糧支援などもする。財源は助成金や県共同募金会などの寄付金。法人は寄付金や物的支援を募っている。県共同募金会を通じても寄付できる=QRコード=。連絡先はやっぺす0225(23)8588。
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