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「命の尊さ伝えたい」家族の歩みを防災絵本に 震災遺族の田村さん夫妻、仲間と5年がかり

絵本を刊行した孝行さん(左)と弘美さん。女川町内の伝承拠点にある追悼碑に絵本を供えた

 東日本大震災の津波で長男の田村健太さん=当時(25)=を亡くした父孝行さん(63)=大崎市=と母弘美さん(61)夫妻が、家族3人の歩みを通して防災や命の大切さを伝える絵本を刊行した。震災の伝承活動で出会った仲間と5年がかりで作り上げた。「健太の生きた証しを残せた。かけがえのない命の尊さを伝えたい」と全国の教育機関などに寄贈している。

 タイトルは「ふしぎな光のしずく~けんたとの約束~」。震災当時、七十七銀行女川支店に勤務中だった健太さんは地震に遭い、支店長の指示で屋上に避難して津波にのまれた。絵本は健太さんの生きた25年間と、わが子を失った悲しみから立ち上がっていった田村さん夫妻の歩みを紹介する。

 前半は健太さんの誕生や成長、就職するまでの幸せな日常を柔らかいタッチで描写する。震災の場面では表現が一変。町を襲う津波や健太さんを亡くした両親の心の痛みを暗い色合いで描いた。後半は伝承活動を続け、悲しみを乗り越える姿を丁寧に描き出す。

 「次世代の子どもたちに震災の記憶や教訓を伝えよう」。約5年前、首都圏の音楽家3人と制作に取りかかった。絵本作りは全員が初めての経験。新型コロナウイルス禍も重なったが、リモートなどで作業を続け、今年3月の刊行にこぎ着けた。

 弘美さんと文章を考えた木村真紀さん(62)=横浜市=は2013年、歌や音楽を通した復興支援活動で女川町に立ち寄った際、支店跡地で田村さん夫妻と出会った。木村さんの紹介で夫妻とつながった渡辺麻美さん(38)=東京都=は初めて挿絵に挑戦した。渡辺さんは「子どもだけでなく、どの世代の人にも伝わる色使いや構図を意識した。田村さんたちの励ましがあって描き上げることができた」と語る。

 田村さん夫妻は伝承活動を通し、日航ジャンボ機墜落事故やシンドラー社エレベーター事故などの遺族らとも交流を深める。全国の学校などへの寄贈は各地の支援者の手によって展開されている。孝行さんは「企業防災についても考えられる内容になった。多くの人に読んでもらい、健太の命を生かしていってほしい」と願う。

 絵本はA5判カラー41ページ。1000部制作し、うち約400部を寄贈する。県内の書店で販売している。1部1100円。

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