知識得て自己肯定も <女性と困難 支援の現場から(5)回復>
性被害やドメスティックバイオレンス(DV)、経済困窮などの問題に包括的に対応する「女性支援法」が4月、施行された。女性たちが直面するさまざまな課題には、家父長制や男女格差の影響が色濃く残る。東北の当事者や支援者の声から、困難の実相を見つめる。(せんだい情報部・菊池春子、丸山磨美)=6回続き=
「つらいです。助けてください」。宮城県内で暮らす結子さん(30代、仮名)は昨春、暴力被害に遭った女性らを支援するNPO法人ハーティ仙台(仙台市)にメールを送った。
乳がん手術の後遺症で体調が安定せず、コロナ禍で派遣の仕事は減った。実家に身を寄せようと父に連絡し、拒まれた後に精神のバランスを崩した。代表理事の八幡悦子さん(71)に会い、幼少期からの話をすると予想外の言葉が返ってきた。「それは虐待だよ」
父は家父長制的な考えが強く、何事にも結子さんの兄を重んじた一方、日常的に母の人格を否定し暴れることもあった。不安定な家庭で兄はストレスを全て結子さんにぶつけ、殴った。20代前半で1人暮らしを始めたきっかけも、兄による暴力だった。
「家の中で安心した記憶はない。『家族が壊れてしまう』と常に不安で、自分の頑張りが足りないからだと思っていた」と結子さん。そんな思考は染み付き、術後で体がつらくても無理な働き方を続けてきた。
ハーティの食事会などで似た境遇の参加者らと話し、虐待やドメスティックバイオレンス(DV)に関する本を読むと、自分の生きづらさの理由が分かってきた。嫌なことは「嫌」と言う練習もした。
傷つき、生きづらさを抱えた人に対しては経済面や医療面などの支援に加え、「正しい知識を得たり人権について学んだりするほか、自己主張する訓練も必要」と八幡さんは言う。スタッフの多くは以前、支援される側だった。トラウマ(心的外傷)の知識や対応を身に付けた上で支援する「トラウマ・インフォームド・ケア」を実践する。
結子さんも今は幼少期の自分を「頑張っていた」と肯定し、「つらいときは休んでもいい」と思える。「家庭環境に恵まれなくても、適切な支援を受けて知識を習得すれば、やり直せる」と一歩ずつ前に進む。
4月施行の女性支援法は、困難を抱える女性の心身回復に向けた包括的支援についても規定する。ただ、官民協働の支援体制は不十分で、適切なケアを受けられずにいる人もいる。
「人生の初期に虐待や性被害に遭うと将来のことを考えられなくなる。仕事や結婚も難しくなり、人生全体へのダメージが大きい」。宮城県内で暮らすひとみさん(50代、仮名)は自身の歩みを振り返る。
両親と祖母からネグレクト(育児放棄)や暴言、暴力などの虐待を受けて育った。10代で性犯罪被害に遭い、極度の恐怖を味わったが、誰にも言えなかった。20代以降、会社帰りの電車で何度も痴漢に遭った。そのたびに10代の被害がフラッシュバックして不眠などの症状が現れ、公共交通機関は使えなくなった。
トラウマによって常に恐怖と焦燥感がつきまとう。性犯罪の加害者に似た人に会ったりすると動悸(どうき)や震えが生じ、精神科などに通い続ける。働くこともままならず、回復は見通せない。
「性犯罪や虐待の被害者が、トラウマのケアや身体の後遺症の治療を継続的に受けられる制度や、医療と福祉の両面で被害者を支える仕組みが足りない」。ひとみさんは、公的支援の充実を求める。
ハーティ仙台は、生きづらさを抱えた35歳以下の女性たちが共に食事をする「ミント食堂」、虐待や暴力で傷ついた当事者らが集う「はりねずみオープンタイム」などを定期的に開催している。詳細はウェブサイトで確認できる。
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