料理の引き立て役【特集】食卓のバイプレーヤーズ
ドラマなどで主役を引き立てる脇役を、和製英語で「バイプレーヤー」と呼ぶ。食卓でも、主役の食材の魅力を際立たせる脇役は存在する。そんなバイプレーヤーズにスポットラ
イトを当てた。
■辛さの中に甘み 和食と共に世界進出《ワサビ》加美町振興公社
鼻に抜ける辛さの中に甘みがあるワサビは日本固有種で、刺し身に欠かせない存在だ。そばやそうめんの薬味になるし、醬油に溶かしてアボカドにかけてもおいしい。こんな主役の引き立て役は、世界的に広がりつつある日本食と共に世界進出を加速させている。
▷涼しい環境好む
「欧米に加え、近年はドバイやカタールといった中東でも和食がブームとなっておりワサビは引っ張りだこ。涼しい環境を好むワサビは温暖化により生産量が激減する中、比較的涼しい加美町では畑や林間に作付けする畑ワサビの栽培が本格化しています」。こう話すのは、宮城県北部地方振興事務所農業振興部の伊藤吉晴さん。
主に茎や葉を利用する畑ワサビは、練りわさびの原料に用いられるケースが多く、加美町の畑ワサビは全量を名古屋市の大手練りわさびメーカーが買い取る契約になっているという。
▷風味豊か 薬莱本ワサビ
根茎部分を主に利用する水ワサビはワサビ田で栽培する。「畑」も「水」も同じ種類で、栽培方法で呼び名が異なる。加美町では20年ほど前から湧き水が豊富な薬莱山の麓で栽培され、料理屋や農産品販売所に出荷される。
「清らかな水で育つ加美のワサビは風味豊か」と加美町振興公社の加藤雄基さんは話す。「薬莱本ワサビ」のブランド名で売り出しており、リピーターが多いという。
公社が経営する「やくらい薬師の湯」にある食堂では、自分ですりおろしたワサビをローストビーフにのせて味わう薬莱ワサビフ丼(1200円)が人気ナンバーワン。
加藤さんは「すりおろしたワサビを瓶詰の岩のりやマヨネーズに混ぜてもおいしい。料亭から注文がある薬莱本ワサビをぜひ味わって」とPRする。
【加美町振興公社(やくらい薬師の湯内)】
加美町味ケ袋薬莱原1-76
TEL0229-67-3388
営/9:00〜21:00 休/第1・3月曜
■赤くて丸くて酸っぱくて 印象深いしょっぱいやつ《梅干し》舘島田ファームDero(角田市)
弁当の白米の真ん中にあると据わりがいい。左党なら焼酎のお湯割りに入れるのが定番か。真っ赤で丸くてしょっぱくて酸っぱい梅干しは、ちょい役ながら印象に残る仕事をこなす。
宮城県で梅干しどころといえば「梅花の里」を掲げる角田市だろう。50年ほど前、生産組合などが梅干し作りを本格化させた。
「一般的に梅10㎏に対して赤シソ1㎏ですが、弊社はよりシソの風味が増すよう1.5㎏を使います」と話すのは、同市でコメや野菜、加工品の生産を手掛ける舘島田ファームDero専務の大泉太貴彦さん。自社栽培の梅と赤シソで毎年約10tの梅干しを作る。
「5月に収穫した梅を天日干ししたり、塩漬けしたりして半年ほどかけて梅干しにします。もちろん無添加。ふるさと納税の返礼品や、飲食店からの引き合いが増えています」と大泉さん。
梅干しのパックを開けると、シソの良い香りがフワッと漂う。口に入れると強い酸味と塩味の中にシソの深い滋味がする。しみじみうまい—とはこのことだろう。
■優しい辛さ 彩りワンポイント《小ネギ(スリムねぎ)》石巻市桃生地区
優しい辛さとじんわりした甘み。小口切りにして、薬味として冷ややっこにのせたり、そうめんのつけ汁に入れたりすると風味も彩りも増す。葉部分を食べる葉ネギを若取りした小ネギは、鮮やかな緑が食卓にワンポイントを添えてくれる。
かつて東日本地域では主に白い部分を食べる白ネギが、西日本地域では葉の部分を食べる葉ネギが主流だったが、流通網の発展や各地の食文化が広く紹介されていく中で、東北地方でも量販店などで購入できるようになった。
宮城県で小ネギは石巻市桃生地区と涌谷町で産地化された。桃生地区では1983年から本格栽培されており、「スリムねぎ」とのブランド名でスーパーなどの店頭に並ぶ。
「スリムねぎは辛みが少なく甘みが強いので子どもでも食べられます。ナムルにしたり、肉巻きにしたりすると主役になれます。根っこ部分は捨てないで、天ぷらにするとおいしいです」。JAいしのまきスリムねぎ部会で部会長を務める高橋真也さんは胸を張る。
家で焼き肉をするときは、刻んだ小ネギを1晩塩だれで漬け込めば、程よく辛みが抜けて「ネギごとモリモリ食べられます」と高橋さん。使いきれなかったときは、小口切りにして冷凍すれば2週間程度は保存できるという。
【JAいしのまき桃生】
営農センター
TEL0225-76-3133
■仙台名物に合う ピリッとした引き立て役《オリジナル七味》藤崎(青葉区)
三角定義あぶらあげ、牛たん、笹かまぼこ―。こんな仙台名物に合う七味を開発し、オリジナル商品として売り出しているのは百貨店の藤崎(青葉区)だ。三角定義あぶらあげ用は2019年の同社創業200周年を記念して、笹かま用と牛たん用は翌年、いずれも七味唐辛子の老舗「八幡屋礒五郎」(長野市)と共同開発した。
「仙台土産プラスワンとして企画しました。とりわけ三角定義あぶらあげは藤崎地下2階のマイキッチンで屈指の人気商品なので、それに合う七味も人気です」。藤崎の高橋悦子さんは話す。
三角定義あぶらあげ用は辛味とガーリック風味のバランスが油揚げにマッチ。牛たん用はしっかりした牛たんの味に負けないよう、3種類の唐辛子に山椒と花椒を加えてしびれるような辛さに。笹かま用は辛さ控えめで香りが良い唐辛子をベースに、ユズやシソで甘みを感じられるようブレンドした。
高橋さんは「『パッケージのデザインがいい』『それぞれの食品に添えて贈ると喜ばれた』との声が寄せられています。自宅でも使ってもらえるとうれしいです」と期待する。
【藤崎】
青葉区一番町3-2-17
TEL022-261-5111
営/10:00〜19:00
(金・土曜は19:30まで)
■味わい滑らかな オールラウンダー《マヨネーズ》花兄園(太白区)
鶏卵や鶏肉、加工品の販売を手掛ける花兄園(太白区)。抗生物質やポストハーベスト農薬を含まない飼料で育てる鶏が産んだ卵は、豊かな滋味で知られる。そんな卵で作るマヨネーズ(300g、350円)は滑らかな味わいで、根強いファンがいる。
原料は鶏卵と圧搾一番搾り菜種油、食塩、醸造酢などでうま味調味料は不使用。30年前から続けるマイルドな味わいを昨年ブラッシュアップし、少しだけ塩味を強くした。
「長年取引がある生協のあいコープみやぎ、あいコープふくしまの組合員からの意見を取り入れ、共同開発しました。『おいしくなった』という意見が多く、売れ行きは伸びました」。同社の大須賀裕さんは胸を張る。
マヨネーズは肉や野菜だけでなく、ケチャップやオイスターソースといった調味料との相性もいい。食材を炒めるときに油の代わりに用いると味に深みが増すし、マヨネーズ単体を味わう「マヨラー」も少なくない。食卓のオールラウンダーなのかもしれない。
【花兄園】
工場直売所/太白区三神峯2-2-30
TEL022-244-3441(平日8:30〜18:30)
営/8:30〜18:30
(河北ウイークリーせんだい 2024年8月8日号掲載)
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