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森を散策しリフレッシュ【特集】森林浴のすゝめ

 スマートフォンやパソコンとにらめっこの毎日―。忙しい日々にストレスを感じていませんか? 森を散策してエネルギーをチャージ。さぁ、森林浴でリフレッシュしよう。

Shinrin-yoku【森林浴】
 樹木に接することで心身に癒やしを求めること。1982年、日光浴や海水浴などになぞらえて、林野庁長官が提唱した。当時は「森に入ると健康によい」という感覚的効果でしか語られなかったが、研究が進み、効果が実証されてきた。海外でも「Shinrin-yoku」「Forest bathing」として注目されている。

■五感で感じてリフレッシュ 森林浴体験 @仙台市青葉区・作並

豊かな緑と清流が迎えてくれる

 森の中ではどう過ごせばいいの? 森を通じて心身の健康の維持・増進を図るための補助と助言を行う「森林セラピスト®」の及川結さん(36)の案内で、青葉区作並の清流沿いの散策路を歩いた。
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 「パソコンやスマホなど、視覚からの情報が多いと脳は疲れてしまいます。他の感覚を使い、脳を休めることが大事。きょうは五感を使ってみましょう」

 この日は曇り空で最高気温27℃と蒸し暑かったが、及川さんに続いて森に入ると、空気はひんやり、すがすがしい。

 森に自生するヒノキ、スギ、クロモジ、サンショウの葉を嗅いでみる。「樹木は虫や菌から身を守るためにフィトンチッドという香り物質を出しています。虫たちには苦手な香りですが、人の心や体には良い効果があります」と及川さん。

 ふかふかした落ち葉が敷かれた土の上をゆっくりと踏みしめる。ごつごつとした木の幹に触れたり、つるつるとした細い枝を握ったりしてみる。そよ風が頰をかすめる感覚を静かに感じる。

 鳥のさえずり、小川のせせらぎ、風に揺れる木々や葉のさざめきが耳に届く。不規則なリズムと規則的なリズムが調和され、人が心地よく感じる「1/f(エフ分のいち)ゆらぎ」だ。

 「深呼吸をしましょう」。及川さんが教えてくれたのは「1対2の呼吸法」。鼻から息を吸って、吸った2倍の時間でゆっくりと息を吐く。自律神経を整えるのに有効という。普段、意識して深呼吸する機会は少ないので新鮮だった。

 シートを広げて寝転がる。背中で柔らかな土の感触を受け止めながら、きらきらと揺らめく木の葉をぼーっと眺め、深い呼吸を繰り返す。緑は最も目に優しい色という。木漏れ日もまた1/fゆらぎ。森全体に包み込まれたような感覚になり、「しばらくここにいたい」と思った。

 「紅白の小さな花が付いているのはミズヒキ」「ホオノキは日本で自生する広葉樹で1番葉が大きい」。及川さんは散策路に自生する植物の説明もしてくれる。作並温泉の豊富な湯量と泉質が、周囲の豊かな森林の恵みであることも教えてくれた。心身のリフレッシュはもちろん、学びのある散策だった。

※今回訪れた「作並二ツ岩散策路」は2021年に作並温泉旅館組合などが整備。湯神神社近くから大きな岩が寄り添う夫婦岩と呼ばれる「二ツ岩」に通じる。周辺は仙台市水道局の管轄でガイドの同伴が必要

(嗅ぐ)爽やかな香りのヒノキの葉
(触る)幹はしっとりとしていた
(聞く)小川のせせらぎが心地よい
(見る)寝転がって眺めた木漏れ日

宮城で唯一の森林セラピスト 及川 結さん

森林は家でも仕事場でもなく、素になれる第三の居場所

 1987年東京都生まれ。受験勉強でストレスを感じたときに訪れたのは近所の雑木林だった。森の持つ癒やしの効果を実感し、大学で森林科学・造園学を学んだ。結婚を機に仙台に移住。2018年に森林セラピスト®︎を取得し、「杜の都仙台で、森林浴。」をコンセプトに掲げる合同会社「杜の日」を立ち上げた。オーダーメードの個人ツアーや医療・福祉のための森林浴プログラムの研究開発も行っている。

―杜―水―温泉― 作並・癒しのひととき

 5~11月の月2回、作並温泉旅館組合主催で及川さんの森林浴ツアーやヨガ、ワークショップを行う。日常から離れた環境に身を置き、温泉街でゆったりと過ごすリトリートを提案。詳細はWEBサイトで確認を。

WEB

【DATA】
合同会社 杜の日
℡050-3637-3266

WEB
Instagram

■森林環境や自然の恵み 考える機会に@宮城県石巻市

❶森を抜けると青緑色に輝く海が印象的な浪田浜に出る

 石巻市牡鹿半島を拠点に森林資源活用事業に取り組む「合同会社もものわ」は、森林や地域の素材を生かした手作りコスメのワークショップや森林浴プログラムを提供する事業「moritoki」を展開している。

 森林浴は基本的に同社が借り受けている山林か長距離自然歩道「みちのく潮風トレイル」のルート上で行う。森林環境や自然の恵みを取り入れた暮らしを知ってもらうことを軸に据え、森林整備の重要性や資源の有効活用についても学べるのが特徴だ。

 もものわの森佳代子さん(41)は「森を訪れる1人1人にとっての森の魅力や森との良い関係を見つけるお手伝いができたらうれしいです」と話す。森と海の恵みを存分に味わいながら、ゆっくりと自分と向き合う時間を過ごすことができる。

 現在、愛犬と森林浴を満喫してもらうプログラムを準備中だ。同市鮎川地区で愛犬と一緒に楽しむアクティビティーを企画する「AYUKAWAHOUSE」の松井裕子さんとコースの安全などを確認し、構想を膨らませる。松井さんの愛犬たちも「自然の中にいると生き生きとしている」のだそう。

❷スギの球果とルイボスティーをブレンドしたもものわ特製のスギハーブティーを飲んで休憩。スギの間伐材で作ったプレートがおしゃれ
❸葉の影を画用紙に映す「木漏れ日キャッチ」

森の香りを部屋でも 森林浴スプレー作り

深い森をイメージしたスプレー

 イメージした森の香りや色をルームスプレーにする森さんのワークショップを体験した。天気に恵まれたこの日は、特別に海辺が会場だった。

 まずはヒノキやスギ、マツなどの国産の精油から「甘い」「爽やか」「軽い」「重い」などの指標を参考に数種類の香りを選ぶ。「同じスギの精油でも木部は沈静、枝葉は覚醒の香り」と森さん。自分がイメージする森の香りになるよう、割合を決めて配合する。

 植物から抽出したエキスで好みの色合いを作り、岩手県奥州市で作られたオーガニックライスエタノールを混ぜたら出来上がり。シュッとひと吹きすれば、部屋の中で森林浴気分。癒やしの香りに包まれる。

 森さんは、人にも環境にも優しいエシカルコスメ作りに取り組んでおり、森で採取したスギの芳香蒸留水を用いたコスメのワークショップなども行っている。9月16日㈷には太白区長町で森林浴スプレー作りのワークショップを開く。

海辺でのワークショップ
森は命の源。生きる力を与えてくれる存在

合同会社もものわ 森 佳代子さん

 1982年兵庫県生まれ。東日本大震災後のボランティアをきっかけに石巻市に移住。一次産業者や地域住民との関わり合いの中で農林漁猟ライフをスタート。難病と診断されたが、森林での活動を通して健康を取り戻した経験から、「日常に森を―」をコンセプトに森と人をつなぐ活動を始めた。森、暮らし、心の「3つの整い」を実践している。

【DATA】
合同会社もものわ  メール moritoki.info@gmail.com

WEB
Instagram

■自律神経のバランス整える効果

東北医科薬科大学 若林病院・病院教授 住友和弘さん

 森林療法を研究する東北医科薬科大学若林病院(若林区)の総合診療科病院教授の住友和弘さん(58)に、森林浴の効果について聞いた。
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 森林浴には自律神経のバランスを整える効果があります。心身を興奮や緊張に導く「交感神経」はアクセル、落ち着かせる「副交感神経」はブレーキに例えられますが、無意識のうちにバランスを程よく整えてくれます。

 森の快適な気温や湿度、直射日光が届かない明るさ、森の香りといった環境が体にいい作用をもたらします。フィトンチッドと呼ばれる木々が発する香り成分は、血圧を下げ、ストレスを和らげてくれます。

 認知機能の向上も期待できます。緑の多い場所に住む人の方が認知機能の低下を予防できるということも分かっています。免疫力も向上し、森を歩くことで体力づくりにもつながります。

 森林浴は道が整備された森で行うことをお勧めします。歩きやすく、けがや野生動物の心配も少ないです。森の香りは夜に作られるので、午前中が効果的でしょう。ご自身のペースで楽しんでください。

(河北ウイークリーせんだい 2024年9月5日号掲載)

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