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女川原発再稼働秒読み、地域はいま(下) 未完の避難道 津波浸水、渋滞懸念も

急カーブと勾配が続く石巻鮎川線。住民は早期の改良整備を切望する=23日、石巻市月浦

 7月17日、牡鹿半島東岸の石巻市大谷川浜地区で、県道女川牡鹿線「大谷川浜小積浜道路」(1.8キロ)のトンネル区間の安全祈願祭があった。道路ができると、半島の東西沿岸を往来する時間が約10分短縮される。

 東北電力女川原発(女川町、石巻市)で重大事故が起きた際は、原発の南西約4キロにある同地区の住民の避難ルートになる。現状の避難計画では女川牡鹿線をいったん約5キロ南下し、そこから半島西岸の県道石巻鮎川線を北上する遠回りを強いられる。

 新たな道路は迂回を解消し、東岸の他地区住民の避難にも使われる。大谷川行政区長の阿部照彦さん(66)は「10分でも時間が短縮できれば、原発事故時の行動に余裕が生まれる」と期待を寄せる。ただし、完成見通しは2027年3月。同原発2号機の再稼働には間に合わない。

■新道路は3年後

 県道路課によると、東日本大震災では女川牡鹿線、石巻鮎川線など半島の主要県道3路線の計199カ所で津波浸水や倒木といった被害が出た。

 起伏が激しく曲がりくねったこれらの道路は震災後、各地で改良が進んだ。住民の多くは「女川や石巻の市街地への移動時間が短縮された」と恩恵を実感する。東北電も大谷川浜小積浜道路の整備費約67億円のうち約30億円を負担する予定だ。

 それでも未整備区間は多く残り、半島住民の多くは、原発事故時の円滑な避難は難しい-とみる。不安払拭にはほど遠い状況だ。

 今月11日、石巻市が牡鹿地区で開いた「動く市長室」では石巻鮎川線への不満の声が相次いだ。急勾配やカーブが続く桃浦地区で内陸部へのトンネル整備が決まったものの、鮎川側の津波浸水区間を解消する見通しが立っていない。

 小渕浜区長の大沢俊雄さん(74)は「津波をかぶれば通れなくなり、避難道として成り立たない」。鮎川第3行政区長の三森伸さん(66)は「原発事故が起きたら避難民で渋滞が発生するのが目に見えている。放射線を浴びて死ねと言うのか」と語気を強めた。

■避難計画、審査外

 原発事故時、石巻鮎川線には半島全域の避難住民が集中する。斎藤正美市長は「道路が1本しかない現状はおかしい」と同調する一方、避難道の整備は主に県事業のため「計画が決まっている箇所の整備を早く進めるよう県に求める」と述べるにとどめた。

 女川原発の重大事故時の避難計画については、原子力規制委員会が「規制委の範疇(はんちゅう)外」として安全審査の対象としていない。

 長年にわたり反原発運動に取り組む元女川町議高野博さん(81)はこう訴える。「規制委は基準に合致するかどうかの審査を合格させただけで、原発の安全を保証しているわけではない。東北電の技術者は原発の運転経験が乏しく、避難道も十分ではない状況で、どうやって住民の安全を確保するのか」

(この連載は大谷佳祐、西舘国絵が担当しました)

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