女川2号機運転差し止め訴訟 原告側の控訴棄却 仙台高裁「具体的危険の立証ない」
東北電力女川原発2号機(女川町、石巻市)の重大事故を想定した避難計画に実効性がないとして、石巻市民が東北電に再稼働差し止めを求めた訴訟の控訴審で、仙台高裁は27日、「運転を差し止めるような具体的な危険を立証したとは言えない」として、一審仙台地裁判決を支持し、原告側の控訴を棄却した。避難計画の内容には言及したが、実効性の明確な判断は示さなかった。
避難計画に争点を絞った訴訟で、高裁が実効性の判断に踏み込むかが焦点だった。事実上の「門前払い」だった昨年5月の一審判決とは異なり、計画の内容には触れた一方、差し止めの必要性は認めなかった。
倉沢守春裁判長は「原告の主張は、避難計画が定める避難の必要性の判断や指示、段階的避難や屋内退避の過程を踏まえたものではない」と指摘。「一斉避難を余儀なくされる、避難経路が利用不可能になるなどの具体的な蓋然(がいぜん)性を原告は立証していない」と説明した。
原告側が不可能だと主張した避難退域時検査場所の要員や避難に使うバスの確保については「発生した事態に応じて臨機応変に決定し、段階的に避難することを想定している。(避難計画をまとめた)女川地域原子力防災協議会で検討されていなかったとしても、看過し難い過誤や欠落があるとは言えない」と計画に一定の合理性を認めた。
判決後、記者会見した原告側弁護団長の小野寺信一弁護士(仙台弁護士会)は「予測とは異なり計画の中身に入った判決だったが、内容があまりにお粗末だ。われわれが立証した証拠を無視した判断だ」と語った。上告するかは今後検討するという。
東北電は「判決は当社の主張を理解いただいた結果と受け止めている。引き続き避難計画の実効性向上に向け、事業者としてできる限りの協力をしていく」とのコメントを出した。
原告側は、重大事故発生時は避難車両の渋滞などで無用な被ばくを強いられ「住民らの人格権が侵害される」と主張。東北電側は「計画は段階的避難を前提としており、避難は可能」などと反論していた。
女川原発は東日本大震災で被災し、全3基が停止。東北電は2号機再稼働に向けて2013年12月に原子力規制委員会に申請し、20年2月に新規制基準適合性審査に合格した。立地自治体の同意や安全対策工事完了などを経て今年10月に再稼働した。
立地2市町首長「コメント控える」
女川町の須田善明町長は「訴訟当事者ではないためコメントは差し控える。原子力防災の充実・強化は不断の取り組みが求められるものであり、広域避難計画などのさらなる実効性の確保・向上に向け、今後も継続的に国や県などと連携し取り組んでいく」とのコメントを発表した。
石巻市の斎藤正美市長は「訴訟当事者ではないのでコメントは差し控える。今後も引き続き、国、県、関係機関と連携しながら、原子力防災訓練の実施や検証などを踏まえ、広域避難計画の実効性のさらなる向上に努める」との談話を発表した。
原告団、怒りと不満あらわ
東北電力女川原発2号機(女川町、石巻市)の再稼働差し止めを求めた訴訟の仙台高裁判決は、重大事故を想定した広域避難計画の内容に触れたものの実効性は判断せず、具体的な危険性を立証していないとして原告側の訴えを退けた。「計画の中身に入ったことは一定の前進」としながらも、原告団は悔しさと複雑な心境を吐露した。
「請求を棄却する」。倉沢守春裁判長が主文を読み上げると、原告団の原伸雄団長(82)は顔をしかめて天を仰ぎ、傍聴席に落胆が広がった。
高裁前で「差し止め認めず」と書かれた紙を掲げた佐藤清吾副団長(83)は「事故が起きたら地元住民の被ばくは仕方ないという見解に基づいた判決。話にならない。怒りしかない」と切り捨てた。
原告側は一審に続き、控訴審でも避難計画の実効性に争点を絞った。高裁は個別の実効性には触れず「計画は避難に関して事態に応じて臨機応変に決定し、段階的避難を想定している」「(原告は)計画で対処できない事象が起きる蓋然(がいぜん)性を主張立証していない」とした。
弁護団長の小野寺信一弁護士(仙台弁護士会)は「一斉に避難する必要性が生じる事態を立証できるはずがない。不可能なことを押し付けている」と不満を口にした。
原団長は「非常に残念。計画は法的位置付けが非常にあいまいだと感じている。今後も原発に頼らないエネルギー計画のため頑張っていきたい」と語った。
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