女川・出島大橋が開通 半世紀の住民悲願、結実 島と本土側で式典
女川町の離島出島と本土を結ぶ出島大橋が19日、開通した。島民の利便性向上や島内の観光振興、自然災害や東北電力女川原発(女川町、石巻市)の重大事故時の避難道路として活用が期待される。地元住民の悲願だった陸路での接続が、半世紀を経て実現した。
開通式は午前10時から、本土側と出島側の2カ所であり、両会場を中継で結んだ。町や県、国の関係者や住民ら約150人が出席。須田善明町長は「一人一人の力や強い思いがあったからこそ、ここまで来られた。橋が開通して終わりではなく、大事なのはここから先。出島にとっての良い未来をみんなで描いていきたい」とあいさつした。
それぞれの橋のたもとでテープカットを実施。出席者は両側から歩いて橋を渡り、中央部で合流した。くす玉を割ったほか、航空自衛隊松島基地(東松島市)所属の曲技飛行チーム「ブルーインパルス」の展示飛行が式典に花を添えた。式典後の午後3時に一般車両の通行が始まった。
出島架橋促進期成同盟会の須田勘太郎会長(84)は、開通による災害時の避難や急病人搬送の迅速化に期待し「感無量だ。生活が便利になるだけでなく、人々の命を守る橋だと思う。関わってくれた全ての人たちにお礼を言いたい」と感謝した。
式典では女川潮騒太鼓轟会の演奏や出島・寺間青年部による獅子振りの演舞もあった。
橋は全長364メートル、全体の重さ約4100トン。総事業費は約170億円。橋の本体工事が2017年に始まった。架橋作業は昨年10月25日から3段階に分けて実施し、11月16日に本土と島が橋でつながった。
架橋事業は1979年、同盟会の設立から動き出した。東日本大震災からの復興と加速した人口減少の抑制に向けて、町が事業主体となり、2015年に橋の建設が決まった。
出島は北部に出島地区、南部に寺間地区の二つの集落があり、ホタテやギンザケなどの養殖業が盛ん。島の水揚げ量は町の4分の1を占める。人口は震災前が約500人で、現在は90人(11月末時点)。
【出島大橋整備の年表】(左の数字は年度)
1979 島民による出島架橋促進期成同盟会が設立
87 町を挙げた活動に発展し、町出島架橋促進期成同盟会が設立
88 島内の出島―寺間間を結ぶ県道出島線の整備着工
2001 別組織だったアクセス道路整備促進期成同盟会と統合、町出島架橋・アクセス道路整備促進期成同盟会となる
11 東日本大震災
15 町道女川出島線出島架橋事業の新規採択
16 県道出島線が全線開通
17 町道女川出島線が着工
架橋本体工事を委託する県と基本協定締結
18 県が架橋本体工事を契約
20 両岸の橋脚や橋台、津市での架橋本体の部材製作が開始
22 女川港で架橋本体の組み立て作業開始
23 架設工事が完了
24 12月19日開通
瀬戸越え、万感の渡り初め
半世紀にわたる地元の悲願が実現した。女川町で19日に開通した出島大橋は、離島の出島と本土を初めて陸路で結んだ。1日3便の航路のみだった島とのアクセスは、町中心部まで車で約15分と大きく改善。島民は買い物や通院、観光など多方面で向上する利便性への期待に胸を膨らませた。
開通式が本土側と島側で同時開催され、渡り初めでは参加者が両端から中央に向かって歩みを進めた。橋から島を見下ろした住民は「こんな視点で見るのは初めて」と感嘆の声を上げた。
「いつか自分で運転して橋を渡りたいと思っていた」。島内の寺間地区に住む阿部嘉代子さん(79)が笑顔を見せた。20代のころ、架橋を見越して石巻市内の自動車学校に通った。それから約50年。免許は返納していないが「運転は子どもに止められた。今は子どもと孫が頻繁に帰って来てくれるのを楽しみにしている」と話した。
出島地区の東日本大震災の復興住宅で暮らす木村弘さん(85)は、急な体調不良の際の不便さに悩まされてきた。島に医療機関はない。離島航路の運航時間外は近所の漁師らに船で送ってもらい、本土の病院に向かった。「次の日の船を待ったこともある。早く橋が架かるように祈ってきた」と喜びをかみしめた。
島への往来の増加が待ち望まれる一方、島を管轄する町消防団第6分団の須田俊彦分団長(70)は気を引き締める。震災以降、島内では火災による出動は一度もない。「本土の応援は呼びやすくなるが、人が増えれば火の不始末も増える可能性がある」と語った。
島の観光振興に尽力する一般社団法人「女川未来会議出島プロジェクト」の高野信代表理事(66)は、島内でトレッキングコースの整備を進める。「ゆくゆくは環境省の『みちのく潮風トレイル』に加わりたい。来訪者が増え、コースへの注目度が上がってくれれば」と追い風を期待した。
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