宮城県が生活保護費減額を取り消し 「逆転裁決」を勝ち取った代理人は70代の元県職員だった
介護施設利用料の滞納分を支払うための借金は「収入」に当たるとして、生活保護費を減額した宮城県の決定に対し、県内の介護施設で暮らす女性が撤回を求め、県が法令違反を認めて処分を取り消していたことが分かった。一度決まった貸付金の収入認定が覆ったことについて専門家は「非常に珍しい」と説明する。

知人からの借金を「収入」と判断
裁決書などによると、国民年金で介護施設に入所していた女性は2022年10月、利用料が支払えなくなり計12万円を滞納した。別の安い施設に移る際に生活保護を申請した。
女性は滞納金を返済しようと、県北部保健福祉事務所に県社会福祉協議会の貸付金制度を利用したいと申し出たが、拒否された。借り入れは生活保護の目的である「自立更生」の範囲に含まれない、とされた。
女性は知人から毎月1万円ずつ借りて施設に利用料を弁済。保健福祉事務所は、知人からの借金を「収入」と判断し、保護費から借り入れ分を減額した。
女性の親族から相談を受けた代理人が23年5月、減額は不当だとして県に処分の取り消しを請求した。
国は、医療や介護のための貸付金は受給者の自立更生に必要との理由から「収入と認定しない」と通知している。代理人は「減額が不当であることは明らかだ」と主張した。
県は今年1月7日付で処分を取り消した。裁決書で県は、保護費の減額を「違法なものといわざるを得ない」と認めた。県社会福祉課の担当者は取材に「あらためて県内の保健福祉事務所に慎重な取り扱いを指導していく」と話した。
生活保護制度に詳しい花園大(京都市)の吉永純教授(公的扶助論)は「類似の事例は聞いたことがなく画期的な裁決だ」と話す。多くの受給者が泣き寝入りしているという。
国の生活保護関連の通知集は1000ページを超え、習熟は容易でない。吉永教授は「自治体は判断に迷う時に相談できる、制度に精通した元職員を決めておくなど専門性を補う仕組みづくりが必要だ」と指摘する。
女性の親族から相談を受け、手弁当で応援

女性の代理人を務めたのは、元宮城県職員の佐々木一雄さん(70)=仙台市青葉区=だった。
女性の親族から相談を受けた佐々木さんは「このままでは、いつまでたっても女性は安心して暮らせない」と感じ、助けを買って出た。県職員の駆け出し3年間、生活保護のケースワーカーを務めた経験がある。
生活保護関連の法令通知集を取り寄せて調べると、医療費や介護費として使う貸付資金は「収入として認定しない」とする1963年の通知を見つけた。
女性の代理人として調査を進めているうちに、苦い記憶を思い出した。
ケースワーカーだった四十数年前、ある母子家庭を訪問した。そこには父親の違う子どもが5人いた。母親はベテランの先輩職員にこれまでの生活歴を詰問され、泣きじゃくった。
そばで見ていた佐々木さんは、いたたまれなくなった。「困っている人を目の前にしたら、自分事だと考える。『自分のため』が『社会のため』になる」。そんな思いを心に留めて生きてきた。
専門家も驚く画期的な逆転裁決を手弁当で勝ち取った佐々木さんだが、多くは望まない。「今後も手の届く範囲で誰かの助けになりたい」と話す。(編集部・横山勲)
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