考えよう地域交通 > 第2部・復興まちづくりと交通 (1)鉄路高台へ 高低差、利便性に明暗
震災の津波被害で石巻地方の交通環境は激変した。震災発生から14年。2市1町のまちづくりは、思い描いた移動環境を実現できたのか。第2部は公共交通を軸に、復興まちづくりの現在地を見つめた。(地域交通取材班)=4回続き=
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JR仙石線の高架橋を上った列車が、東松島市の野蒜駅に入る。山側には整然と並ぶ住宅街。反対側を見下ろすと、まばらに残る建物の先に、海が広がる。
■団地と一体整備
東日本大震災の津波で甚大な被害を受けた仙石線は5月、全線運行再開から10年を迎える。JR東日本は陸前大塚-陸前小野間の約3キロの線路と、野蒜、東名両駅を約500メートル内陸で標高22メートルの高台に移設した。山林91.5ヘクタールを切り開いた市の防災集団移転団地「野蒜ケ丘」の整備と一体で進められた。
運行再開の日、沿線で大漁旗を振って列車を迎えた無職佐々木勝久さん(79)=野蒜ケ丘2丁目=は「市中心部や石巻、仙台にも行きやすい。住み心地の良さは想像以上」と実感する。
野蒜ケ丘は2025年1月末現在、510世帯1258人が暮らす。団地内には二つの駅に加え、小学校や保育所、市民センター、スーパー、郵便局、診療所や高齢者施設など、まちの機能を集約した。
全世帯が駅まで徒歩10分以内にある。15年に開業した仙石東北ラインを使えば仙台駅まで最短31分。利便性と豊かな自然が注目され、市が18年に30の空き区画を一般分譲した際には、仙台圏から子育て世帯の転入が相次いだ。
ともに仙台から移り住んだパート従業員浜畑友香理さん(37)=同3丁目=は「小学校や駅への近さが決め手になった」と語り、保育士桜井みゆきさん(36)=同=も「子どもと参加できる催しが多い。地域で支え合う雰囲気もいい」とうなずく。
■駅まで坂と階段
新たなまちに光が当たる反面、従来の住宅地は駅との高低差が生じた。
高台の下に広がる新東名地区。内陸側の1、2丁目は災害危険区域に指定されず、高台移転の対象から外れた。現地で再建・修繕した世帯が多く、1月末現在で219世帯515人が暮らす。
震災前は旧東名駅に近く、仙台圏への通勤者にも人気だった。「こんなに駅が高くなるとは思わなかった」。新東名1丁目の女性(73)が新しい駅の方を見上げる。通院や買い物で仙石線を使うため、坂と階段を上り下りする。「あれほどの被害があったから仕方ないけれど、しんどいというのが本音」とつぶやいた。
観光誘客へも影を落とす。旧野蒜駅周辺の震災伝承施設、奥松島観光の拠点となる宮戸地区への移動手段はタクシーのみ。旧野蒜駅に近く県内屈指の来場者数を誇った野蒜海水浴場は利用が低迷し、市は24年から開設を中止した。
「不便はあるけれど、住まいもなりわいも、誰もが満足できるまちづくりは難しい」。新東名2丁目の無職男性(74)は言う。「結果を急がず、住民や行政、事業者それぞれが歩み寄っていけばいい」
JR仙石線・東塩釜-石巻間利用者数、震災前の7割
JR仙石線は東北の在来線では東北本線に次ぐ需要がある。JR東日本は、仙石線の内陸移設に100億円強の事業費を投じた。東日本大震災発生当時の利用者数と、東松島市が求めるまちづくりとの一体性、復興への寄与の3点から決定した。
ただ、人口減少の加速などから仙石線の利用者数は当時と比べて大きく減少している。東塩釜-石巻間の1日1キロ当たりの利用者を示す平均通過人員(輸送密度)は2023年度が7371人で、震災前(07年度)の7割程度にとどまる。
仙石東北ラインが開業した15年以来、輸送密度は19年度まで右肩上がりで増えた。震災前水準への回復が期待されたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、20年度には震災前の半数近くまで落ち込んだ。
震災後の不通期間が4年2カ月に及び、仙台圏などに通う市民が転出したことも大きい。高台のまちと一体整備された野蒜駅も、通勤通学時間帯を除けば利用者はまばらだ。1日当たりの乗車人員は、震災後最も多かった19年度でも213人で、震災前の半数にも届いていない。
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