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ワカメ養殖大打撃「これを機に漁業をやめるかも」 大船渡・山林火災 収穫期間近の浜を襲った悲劇

全焼した作業場の前で立ち尽くす塩口さん=11日、岩手県大船渡市三陸町綾里

 岩手県大船渡市の山林火災は、豊かな漁場に恵まれ、定置網漁とワカメ養殖が盛んな三陸町綾里の漁業に深刻な被害を与えた。漁協の施設や作業所、漁具が焼失。東日本大震災に続いて「二重被災」した漁師もおり、定置網漁は操業の見通しがつかない。度重なる災禍を嘆き、綾里の漁業の再興を危ぶむ声が上がる。(大船渡支局・丹野大、北上支局・江川史織)

震災に続き「二重被災」の漁師も

 「こんな状態では何もやる気がしない。どこから手を付ければいいのか」

 綾里地区全域の避難指示解除から一夜明けた11日、綾里のワカメ漁師塩口秀男さん(57)が、跡形もなく焼けた作業所の前で立ち尽くした。

 塩口さんの作業所は2011年3月11日にも震災の地震で損壊した。補助金を受け、約1500万円かけてようやく7年ほど前に再建。ワカメの塩蔵やホヤの養殖に使う資材など計約1500万円相当の設備もあったが、2月26日に起きた今回の山林火災に作業所もろとものみ込まれた。

 綾里のワカメは全国有数の産地、岩手でも最上級の評価を受ける。塩口さんは今季、高値が付く塩蔵での出荷を諦め、生ワカメに限った。3月が収穫期に当たり、設備を借りようにも間に合わない。「自慢のワカメを出荷できず、大きな痛手だ。再開のための支援制度を整えてほしい」と訴えた。

 綾里の養殖漁業は近年、温暖化による海水温上昇の影響を受けて転換期にある。

 綾里小石浜で漁業を営む佐々木淳さん(54)も養殖していたホタテの97%が死滅。ホタテに加えて今年からワカメを養殖し、新たな収入源にしようとした矢先だった。

 ワカメの収穫期が迫り、成長を促す間引きに取りかかろうとしていた2月26日に山林火災が発生。避難指示が長引き、作業が遅れた。佐々木さんは「光合成ができず、収量が伸びない可能性がある。なんとか間に合っていればいいが」と気をもむ。

 綾里漁協によると、ワカメ漁師の2割近くが作業所などが焼ける被害に遭った。

 組合長の和田豊太郎さん(74)が「再建に数百万円以上かかる。若い人は再起できるかもしれないが、高齢の漁師はこれを機に漁業をやめるかもしれない」と懸念する。

 綾里の漁業者の多くが養殖と定置網漁を兼ねているが、山林火災で漁協の倉庫が全焼し、収容していた網4セット全てを失った。定置網1セット約1億円で被害は計4億円に上る。網は発注から届くまで1年はかかり、漁が再開できるめどは立っていない。

 春はワカメを採り、初夏からは定置網で魚を取る。綾里に根付く漁のサイクルだ。「定置網がないと浜の暮らしが回らない。遅れても何とか年内に操業できるよう方法を考えたい」。和田さんは前を見据えた。

損壊したワカメの脱水機などを説明する塩口さん=11日、岩手県大船渡市綾里野々前
損壊した塩蔵設備を説明する塩口さん=11日、岩手県大船渡市綾里野々前

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杜の都防災メールより