第5部・共生に向けて(2)近い水 居住場所の見直し加速

吉田川の堤防決壊地点近くでは、今も水が引かない場所が残る=3日、宮城県大郷町粕川

 昨年10月の台風19号豪雨で吉田川の堤防が決壊し、広範囲が水没した宮城県大郷町粕川の中粕川地区。半年が過ぎた今も被災したままの姿の家屋が点在する。

 決壊地点から約150メートル東にある高橋俊雄さん(68)宅は床上1メートル近くまで浸水した。同居していた子や孫らは隣町のみなし仮設住宅に身を寄せた。「『水害はもうたくさん。住みたくない』と言われてね」と、寂しげな表情を浮かべる。

 高橋さん自身は身の振り方を決めかねている。生まれた時から住む土地は離れたくないが、孫らと同居したい気持ちもある。それ以上に「この先もここに住み続けて大丈夫なのか」との思いが消えない。

 町は浸水域を住宅建築などを禁じる災害危険区域に指定していない。「堤防が強化復旧されれば安全だと考えられる」ためだが、現地再建を望む住民が多いことに配慮した面が大きい。

 安全確保に向け、苦渋の決断をした自治体もある。須賀川市は昨年11月、同年6月に策定したばかりの市立地適正化計画で、柱となる居住誘導区域を全面的に見直す方針を決めた。計画はコンパクトシティー実現に向けた施策の一つだった。

 阿武隈川や支流の氾濫による大規模浸水で市内の2人が水死した。ともに住まいは誘導区域内。「浸水域は誘導区域から除く方向だが、現に住んでいる人はどうしたらいいのか」。市都市計画課の担当者の悩みは深い。

 各地で過去最大の雨量となった台風19号豪雨後、水害リスクがある土地の利用に再考を促す動きが加速している。今後も想定外の降雨で水害が発生しかねないとの危機感が背景にある。

 国土交通省が1月、被害が大きい全国7水系を対象に打ち出した治水プロジェクトでは、阿武隈川、吉田川の両水系で「移転支援」「災害危険区域の指定」が中核メニューの一つとなった。土木学会も同月公表の提言で「氾濫リスクが少ない場所への住宅の誘導、災害危険区域の設定、集団移転事業の推進」を訴えた。

 東北地方整備局の担当者は「土地利用も気候変動を踏まえた在り方が求められている。学会も同じ認識なのだろう」と説明する。

 水害リスクに目をつぶる姿勢から、危ない場所は避けるという自然な姿への回帰。これを見越していたかのような取り組みがある。滋賀県が2014年に施行した流域治水条例だ。

 条例は水害危険度が高い区域で建築を制限し、一定の浸水が予想される場所を原則的に市街化区域から除外する条項を設けた。河川洪水と内水氾濫を合わせた浸水ハザードマップも全国で初めて作成した。

 「地価が下がったら責任を取れるのか」。県議会などで反対論もあった中、任期8年を条例制定に賭した前知事の嘉田由紀子参院議員は「水害と共存した昔の知恵は、川や水が人々に近い存在だったから持ち得た」と指摘し、こう続ける。

 「堤防などで川に閉じ込めた『遠い水』を、あふれることも受け止めた『近い水』に戻さなければこの先、水害とは共存できない」

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