第5部・共生に向けて(4)降雨激変 進む東北の「西日本化」

 横殴りの雨が未明の暗闇を切り裂く。山手から押し寄せた大量の雨水は住宅地で渦を巻いた。

 岩手県岩泉町小本(おもと)地区。鈴木孝徳さん(65)の自宅兼店舗は昨年10月の台風19号豪雨で、東日本大震災の津波以来の床上浸水に見舞われた。家業の駄菓子店を半年前に再開したばかりだった。

 屋根や窓をたたきつける風と雨のごう音の中、泥水は玄関から一気に室内に入り込んだ。「(2016年8月の)台風10号の時は床下(浸水)で済んだのに」と肩を落とす。

 台風19号で町は観測史上最大の1時間雨量93.5ミリを記録した。町内で25人が亡くなった16年の台風10号豪雨時の2倍以上という猛烈な雨だった。

 昨秋の日本近海は平年より海面水温が1~2度高く、台風が発達しやすい27度以上の海域が本州南岸にとどまっていた。台風19号で日本上空には、南米アマゾン川の総流量をはるかに超える規模の水蒸気が流れ込んだとされる。

 岩手県では岩泉町を含む沿岸部に雨が集中した。台風から吹き付ける暖かく湿った空気が冷えた海岸付近の空気にぶつかり、上昇気流が立て続けに発生。上空に持ち上げられた水蒸気はたちまち飽和し、大量の雨粒となって降り注いだ。

 24時間雨量は岩手、宮城、福島3県の計31地点で観測史上最多を更新した。盛岡地方気象台の蒔苗(まかなえ)仁土砂災害気象官は「大まかな降雨のメカニズムは分かっても、これほどの雨量は過去の知見で説明できない」とうなる。

 地球温暖化による気候変動のあおりで、東北の空も変質しつつある。これまで台風は西日本に上陸後、日本海へ抜ける進路が多かったが近年、図1のように傾向に異変が生じている。

 1951~2019年に東北に接近・上陸した台風は計96個で、約45%が日本海に抜けた。勢力の衰えにくい東日本の太平洋側をなぞった台風は20個と割合少ないが、うち6個は11~19年の短期間に発生した。

 台風19号も「太平洋ルート」だった。宮城、福島両県にまたがる阿武隈川は南から北への流れと台風の進路が重なり、過去の氾濫例に漏れず川水が各地で堤防を越えた。

 分析した北海道大大学院工学研究院の山田朋人准教授(水文気象学)は「今後の進路傾向は不透明だが、これからの水害対策は気候変動を前提に考えるべきだ」と警鐘を鳴らす。

 19年に仙台管区気象台がまとめた気候変化の将来予測は東北の「西日本化」を暗示する。温暖化が最も進む場合の解析結果では、21世紀末の東北は年平均気温が今より4~5度上昇し、仙台市の年平均気温は現在の福岡市と同程度。数十年に1度とされる1時間雨量50ミリ以上の豪雨は図2が示すように、数年おきに発生するようになる。

 「(台風など)熱帯低気圧の風と降雨の増大が危険を深刻にする」。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)も昨年9月公表の特別報告書で警告した。

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決壊 台風19号・治水のゆくえ

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