高台移転(3)差し込み型/既存集落の空き地活用

集落内の空き地を活用する「差し込み型」で集団移転した佐川さん=2020年12月中旬、岩手県大船渡市

 「元々分かっている土地に、分かっている者同士でとにかく早く再建しようと動きだした」

 岩手県大船渡市三陸町越喜来にある浦浜南地区の自治会副会長佐川均さん(69)は、地区内の高台移転の取りまとめに奔走してきた。

 東日本大震災で自宅を失った佐川さんら被災者は、地区内に住宅や農地、公民館が点在する高台に目を付け、2011年4月から地権者と交渉。大規模な造成をせず、空き地や農地を活用する「差し込み型」と呼ばれる手法で、11戸が防災集団移転促進事業で移り住んだ。

 集団移転の対象となった市内21地区366戸のうち、浦浜南のように一部の造成地も組み合わせたエリアを含めて13地区186戸(50・8%)に差し込み型が適用された。

 「山を大きく削らなければいけないのか」。戸田公明市長(71)は当初、大規模な造成工事を覚悟した。

 市内は平地が乏しく、険しい山林が海岸にせり出す典型的なリアス地形だ。海岸沿いに家々が並び、一部損壊も合わせて被害家屋は5592戸に及んだ。市は自宅を再建する被災者のため、宅地を用意する必要に迫られていた。

 市出身で防災科学技術研究所(茨城県つくば市)の客員研究員佐藤隆雄さん(72)が11年3月下旬、古里に入った。避難所に食料を配りながら市内をくまなく歩き回ると、空き地や農地が目に留まった。

 「既存のコミュニティーの中に移転することができれば、新たなライフラインの整備は必要ない」。阪神大震災や新潟県中越地震の研究を重ね、同じ集落内に小規模に移転する利点を探ってきた。

 戸田市長も同年6月、自衛隊のヘリコプターで上空から市内を視察し、浸水域の背後に活用できる土地があることに改めて気付いた。

 市の災害復興計画策定委員会の委員になった佐藤さんは翌7月、大規模造成が議論された会議で差し込み型を提案した。

 「移転候補地の範囲が大きすぎる。上の方の集落の畑などに埋め込めばうまく収まる気がする」「大規模な住宅団地を造成しても誰も入らなければ意味がない」

 直後、佐藤さんは国土交通省の官僚に集団移転事業の要件緩和を掛け合った。国交省は11年12月、「10戸以上」から「5戸以上」に要件を引き下げ、差し込み型の実現に結び付いた。

 浦浜南の佐川さんは15年2月に土地が引き渡され、年内に自宅が完成した。どんと祭や敬老会、お花見会といった地元行事が引き続き行われ、住民同士の交流が維持できている。

 自宅跡にはイチゴ栽培のハウスが立つ。地域の風景は変わっていくが「これからも、みんなで助け合って生きていく。新しい住民も来てくれるといい」と佐川さん。

 ぬくもりが伝わるコミュニティーを維持しながら、穏やかに過ごせる日々を願っている。

「安近短」、地域のつながりも保つ

 防災集団促進移転事業で「差し込み型」を多用した大船渡市。コストを抑え、同じ集落内で住宅を再建でき、短期間で工事が完了する「安近短」の効果は大きかった。市民団体の試算がメリットを裏付ける。

 仙台市の市民団体「東日本大震災復旧・復興支援みやぎ県民センター」が、大船渡市で実施された集団移転の事業費を国の復興交付金ベースで試算した=表1=。

 全366戸の1戸当たりの整備費は3892万円。造成地を一部組み合わせたエリアを含めた差し込み型は3237万円で、平均より約650万円低かった。差し込み型で13戸が移転した梅神地区は2697万円。59戸を整備した市内最大の造成地・中赤崎地区(8275万円)に比べ、費用は3分の1だ。

 みやぎ県民センターは、宮城県女川町の集団移転の事業費も試算した。漁村エリア13地区計220戸は、1戸当たり7269万円かかった。1戸当たり1億円を超えたケースも3地区あった。

 集団移転事業には道路や水道、電気などインフラの新設費も含まれる。みやぎ県民センターは「差し込み型は既にあるインフラが使え、低コストになった」と分析する。

 2012年4月から4年間、大船渡市の副市長を務めた角田陽介氏(47)=復興庁企画官=は「差し込み型は簡易な工事で進められるため、工期が早く、事業費が下がるのは明白だった」と振り返る。

 平均の工期は差し込み型が289日で、非差し込み型の424日に比べ4カ月以上早かった。計画戸数の推移=表2=は、13年3月末と15年12月末の比較で、差し込み型が3割減にとどまったのに対し、非差し込み型は約7割も減った。差し込み型は工期が短く、事業の完成を待ちきれず他の地域に移った人が少なかったためとみられる。

 「安近短」に加え、コミュニティーの維持などメリットが多い差し込み型だが、どこでも通用するわけではない。

 角田氏は「都市部のように大規模な宅地が必要な場合、よほどの空き地がないと機能しない」と指摘。「次」の災害に備え、よりよい移転先を事前に調査する重要性を説く。

 大船渡市では住民主導で移転先の土地確保や区割りが進んだ。みやぎ県民センターの小川静治事務局長は「各集落の自治活動が活発だったため、集落内に被災者がまとまって移転できた。事前の備えとして、平時から自治力を高める努力も必要ではないか」と話す。

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