「結局、お金をもらうために集まっただけだった」
宮富士工業(石巻市)の後藤春雄社長(74)は、東日本大震災からの復旧のために受け取った国の「グループ化補助金」を振り返るたび、苦い思いにとらわれる。
発電所のプラントなど大型設備を製造する同社は、石巻工業港近くの本社工場が津波に遭い、工場内の溶接機も失った。損害は2億円に迫った。
グループ化補助金は当初、大手のサプライチェーン(部品の調達・供給網)や有力企業群が主な対象とされた。元請け企業から声は掛からない。仕入れ先を通じて同じ状況の同業者を集め2011年11月、計15社で申請にこぎ着けた。
もともと取引のなかった企業同士。申請に伴い「グループ」で取り組む共同事業をどうするか。高校や少年院で技術指導を長年続けてきた後藤社長は、共通課題である人材育成を足掛かりにしようと構想した。
16年2月、資金を出し合い、市内の児童を工場に招いて体験教室を開いた。鉄板を曲げ、溶接し、貯金箱を作る。反応は上々だ。息の長い取り組みになる-。
ところが、その後に一部の企業から届いた声に失望した。「このお金、何に使っているのでしょうか」「次からは出したくない」
負担を求めたのは1社2万円。開催費用約100万円の大半は宮富士工業の持ち出しだ。年1回の報告会では、目的の共有すらできていなかった。教室は単独で今も続けるが、グループ活動は霧散した。
売上高は震災から3年ほどで回復。補助金が助けとなったのは間違いない。ただ、思い描いた協業や共同受注は幻に終わった。最新設備の導入が認められず、新規事業開拓がかなわなかったことと相まって、後藤社長は「もったいなかった」との思いが消えない。使途が新商品製造への転換などに拡大されたのは、15年度になってからだった。
震災直後の11年6月に創設されたグループ化補助金。地域全体の再生を担う企業グループに資金を投じる-とのロジックで、従来の災害復興が踏み込んでこなかった実質的な個別事業者支援に道を開いた。
一方で「グループ」の位置付けは曖昧だった。商工会議所が地域の300社以上を集めて申請したケースもあった。補助金確保が目的化し、経営実態にそぐわない過大な投資を誘引してしまう側面もあった。
グループを形成し、補助金を申請する作業は被災企業に高いハードルだった。
岩沼精工(岩沼市)は、同じ工業団地で被災した計9社でグループを組んだ。仕事上の付き合いはなく、目的に設定したのは「異業種連携による地域活性化」。分厚い申請書類に具体的に盛り込むため、1カ月ほどは週2、3回の打ち合わせに追われた。
「復旧作業でいっぱいいっぱいの中、かなりしんどかった」と千葉厚治社長(45)。「復興のための雇用維持」といった柔軟な目的設定を認めてほしかったと振り返る。
東日本大震災を契機に創設され、なりわい再生に大きな役割を果たしたグループ化補助金の正式名称は「中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業」。施設・設備の復旧経費の4分の3(国2分の1、県4分の1)という高い補助率で被災企業を支えた。
東北経済産業局によると、震災で被災した青森、岩手、宮城、福島4県の計663グループ、延べ1万231事業者にグループ化補助金を交付した(昨年末時点)。補助総額は約5098億円に上る。
経産局の渡辺政嘉局長は、グループ化補助金について「産業活動の早期復活を加速化させる財源を提供でき、一定の効果があった」と評価する。制度は熊本地震(2016年)、西日本豪雨(18年)、台風19号(19年)でも適用され、相次ぐ自然災害時の復興支援策として定着した。
一方、経産局が20年夏、4県の交付事業者を対象に実施したアンケートによると、売り上げが震災前の水準まで回復した企業は44・0%、雇用では55・5%。ともに前年から微減し頭打ち状態にある。復興工事の恩恵を受けた建設業が売上高を伸ばす一方、水産加工業、観光業が震災前を下回るなど、業種によって好不況の差は大きい。
そうした現状に、渡辺局長は「復興が十分でない三陸の水産加工業を支援するため、関係者による協議会を組織して競争力強化に取り組む」と、引き続き支援する姿勢を強調する。
補助金の受け皿となった「グループ」の果たした役割は一様ではない。その多くが補助金を申請する以上の連携に発展できなかった中で、企業間の協業に深化した例もある。
1月下旬、東京都内であった自動車産業関連の大規模展示会に、福島県南の金属加工業4社が共同で出展した。任意団体「白河素形材ヴァレー」に名を連ねる企業だ。
白河市周辺に本社や工場がある鋳造や金型製作、熱処理などの13社でつくる。補助金申請後、金属鋳造のキャスト(東京)の白河工場(白河市)の呼び掛けで発足した。
震災以前は、互いに隣の工場で何を作っているのか知らなかった。経営者たちは約2年かけて全員で全社を回り、会合は80回を超えた。販路開拓に向け、国内外の展示会で共同で場所を確保するまでの関係を築いた。
キャストの若林誠社長(50)は「連携することで広い間口で受注して割り振ることができる」と語る。金属加工で生じた端材を別の企業で買い取ってコスト削減につなげるなど、新たな展開も生まれた。
グループ化補助金は雇用を守るなど事業再開に役立つ一方、本来は市場から退出すべき企業を延命させたという見方がある。
東北大大学院経済学研究科の増田聡教授(地域計画)は「グループを組んだことがどれほどの意味を持ったのか、メリットとデメリットを冷静に分析する必要がある」と問題提起する。
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