なりわい(3)二重ローン/救済条件 高いハードル

イカの塩辛を箱詰めする八葉水産の従業員。二重ローン問題を機に経営改善に力を入れる=1月、宮城県気仙沼市

 「元の債務をいったん棚上げできる制度ができました」

 宮城県内で水産加工会社を営む男性は2011年秋、宮城産業復興機構(仙台市)の担当者から、そう伝えられた。

 工場は東日本大震災の津波に遭い、前年に導入したばかりの最新設備が全滅。銀行などから借り入れた2億円以上の負債だけが残った。金利負担は年間700万円。建屋復旧のため新たな融資も受け「二重ローン」の状態となった。再起の足かせになることは目に見えていた。

 「いくらか楽になるかもしれない」。その期待は程なく失望に変わる。交渉を重ねてもまとまらない。取引銀行からゴーサインを得られなかった。二重ローン支援のもう一つの組織、東日本大震災事業者再生支援機構(仙台市)に相談しても、結論は同じだった。

 両機構の支援は、被災企業に対する金融機関の既存債権を一部買い取り、事業再開に向けた融資をしやすくするものだ。男性のケースでは、既に建屋復旧に融資している銀行側が、債権放棄につながる機構による買い取りに応じなかった。

 「どちらの機構も何の助けにもならなかった。機能しない仕組みだと感じた」。男性は吐露する。

 会社はその後、銀行の返済猶予にも助けられながら少しずつ売り上げを伸ばしているが、債務超過の解消は遠い。資金繰りに頭を悩ませる日々が続く。

 被災企業の二重ローンに対応した両機構の実績は表の通り。再生支援機構の支援実施件数は744件で、相談件数全体(2938件)の約25%にとどまる。

 なりわい救済を掲げた枠組みも、結局は金融機関の意向に大きく左右された。「再建可能性」「将来性」という厳格なハードルに、多くの企業が門前払いされた。

 「うちは株式会社ですから」。先の男性が宮城産業復興機構側から言われた言葉だ。「あれだけの災害に遭い、利益を生む再生計画を簡単には出せない。出発点が違っていたのではないか」

 晴れて支援を受けた企業も、再生の道は険しい。

 再生支援機構によると、ローン完済に至ったのは全体の2割の約160件。再生を断念し、廃業や自己破産に至った企業も約25件ある。特に水産業は販路喪失と漁獲不振が重なり、経営環境が悪化している。

 水産加工の八葉水産(気仙沼市)は、津波で全6工場が全壊した。一部は09年に完成したばかりで、20億円近い負債が残った。復旧にグループ化補助金を充てたほか、再生支援機構に債権の一部を買い取ってもらい、取引する仙台銀行から必要な融資を受けた。

 その過程で、収益につながらない商品のカットや調達価格の見直し、人員の再配置などあらゆる工夫でローンを圧縮し、何とか再建に道筋を付けた。

 清水敏也社長(60)は「支援によって骨太にスリム化でき、事業継続がしやすくなった」と受け止める。その上で「コストを下げる努力や社員教育を進め、収益構造を見直して返済へのシナリオを書かないといけない」と語る。

被災企業向け二重ローン支援機関の対応実績(件) ※再生支援機構は昨年末時点。各県機構は1月末時点、中小企業庁調べ。総数は青森、茨城なども含む

[産業復興機構と東日本大震災事業者再生支援機構]ともに金融機関からの債権買い取りや債務免除を通じ、二重ローンを抱えた被災企業の経営再建を支援する公的機関。産業復興機構は2011年10月~12年3月、岩手、茨城、宮城、福島、青森、千葉の6県に最大100億円のファンドとして設立。中小企業基盤整備機構と各県、各県内の金融機関が出資した。再生支援機構は小規模事業者などに対象を広げ、より広く再生の機会を与えようと、12年2月に国が設立。債権買い取り総額を当初5000億円と設定していた。

東日本大震災事業者再生支援機構・松崎孝夫社長/支援744件 評価これから

[まつざき・たかお]早大卒。1979年日本長期信用銀行(現新生銀行)入行。新生銀行常務執行役員法人営業本部長、東日本大震災事業者再生支援機構常務などを経て2016年4月から現職。福島県三春町出身。

 被災企業の二重ローン対策を担う東日本大震災事業者再生支援機構(仙台市)は2012年に発足した。昨年12月末時点の支援決定件数は744件で、買い取り債権の元本総額は1323億円、債務免除総額は660億円。今年3月末に新規案件に対する支援決定の期限を迎えるに当たり、松崎孝夫社長(65)に話を聞いた。

 -支援決定期限を控え、評価は。

 「小規模事業者の再生は初めての取り組みだった。震災翌年から件数をここまで上げられたのは成果だ。評価にはもう少し時間がかかるが、復興に向けた手だての一つにはなった」

 -これまでの支援完了は決定件数の約2割(186件)にとどまる。

 「大企業と異なり、小規模事業者の財務体質が良くなり、収益力が生まれる絵を描くには10年超かかる。むしろ金融緩和により前倒しで支援完了した会社が多い印象で、遅れているイメージはない」

 -平時の融資と同様に金融機関の意向が強く反映され、「助けにならなかった」との声も聞かれる。

 「金融機関が通常ベースで考えていたという点は明確に違う。債権を売却して再生させる姿勢が金融機関にあった。震災直後、すぐに再生計画が作れないのは当然で、震災前をベースに約7割の売り上げで済む再生計画を立てた」

 「『どうしたらやれるか考える』という発想で取り組んできた。企業に対して2回、3回とヒアリングを重ね、見通しが立った企業は広く支援している。漏れた企業があるとすれば、反省しなければいけない」

 -支援完了の中には、自己破産や廃業したケースもある。

 「震災後に台風などの被害で計画通りにならず、事業者の心が折れることもあった。債権をカットしたところに、近年の自然災害、そして新型コロナウイルスと根雪のように借入金が増えているのが実態だ」

 -今後の支援は。

 「新規の支援決定が一段落した15年後半から、経営相談や商談会などの本業支援に取り組んできた。新型コロナの影響もあり、売上高を上げるための策がなければ運転資金が回らない」

 「企業は新型コロナの補助金申請など多くのことに困っている。見守り医のように、財務面以外でもいつでも相談に乗れる態勢を構築していく」

 -全国で大規模な自然災害が相次ぐ。

 「震災で(各県の産業復興機構と)二重ローンの買い取り機関が二つあったのは非効率だった。支援機構の発足が遅かった反省から、熊本地震などでは早期に支援組織が作られ、地域金融機関との連携も図れた。金融面では相当早く準備できるようになった。小規模事業者を公的機関で支援することは、今後も必要だ」

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