津波耐えた気仙沼の桜 そろばんに 兵庫のメーカー協力「痛み知る仲間、伝承に役立てば」

津波に耐えた桜で製作されたそろばんを手にする木村さんの教え子たち=気仙沼市上田中2丁目の木村塾
堤防工事で伐採される前の神山川沿いの桜並木=2017年4月

 東日本大震災の津波に耐えながら、宮城県の河川堤防の建設に伴い伐採された宮城県気仙沼市神山川沿いの桜が、そろばんとしてよみがえった。手掛けたのは、阪神大震災を経験した兵庫県のメーカー。「同じ被災地として震災を語り継ぐ力になりたい」と、職人たちが思いを込め仕上げた。

 宮城県気仙沼土木事務所は2018年1月、伐採した桜を使いやすいように切って30人以上の希望者に提供した。市内のそろばん塾講師の木村祐子さん(58)も数本を受け取った。
 木村さんにとって桜並木は、夫が経営するそろばん塾や娘が通った幼稚園を行き来する際、春を感じた思い出の風景。津波を受けても花を咲かせ、人々の心を励ました桜を何かの形で残したかったという。
 木村さんは「この木でそろばんが作れないかな」と会員制交流サイト(SNS)に投稿した。すぐに、取引を通じて交流があった兵庫県小野市のそろばん製造「ダイイチ」会長の宮永英孝さん(69)が「やってみましょう」と応じた。
 「播州そろばん」で知られる小野市は神戸市から北西に40キロほど離れた内陸部にあり、「雲州そろばん」の島根県奥出雲町と並ぶ二大産地。木村さんが桜を送り、宮永さんは倉庫の風通しの良い場所で2年以上かけ木を乾燥させた。
 通常、原材料に使う宮古市産カバより密度が低い桜は割れやすく、玉の削りや、かんな掛けで慎重な作業が求められた。宮永さんは四つの製造工程ごとに異なる職人をそれぞれ説得し、通常の倍以上の時間をかけ製作を進めた。15桁と10桁の計24丁を、先月までに完成させた。
 右上の玉には「気仙沼の力強い桜」と刻印した。宮永さんは「職人にも特別なそろばんだと理解してもらい、採算抜きに大切に仕上げた。震災の痛みを知る仲間として、災害伝承にも役立てばうれしい」と話す。
 先月、桜で製造した播州そろばん4丁が手元に届いた木村さんは「3年かけ、希望が実現して感慨深い。震災10年を前に明るい話題になった」とほほ笑む。塾で教え子に披露した後、市内で寄贈先を探すという。
 ダイイチは、製造したそろばんを自社サイトなどで販売している。桜のみで仕上げたそろばんは15桁1万3200円、10桁8800円。枠と玉一つが桜のそろばんは15桁1万1000円、10桁7700円。連絡先はダイイチ0794(62)6641。

[神山川沿いの桜]左岸約600メートルに58本の並木があり、40~50年前に地元住民が植えた。堤防工事のため宮城県は当初、全て撤去する予定だったが地元の反発などで17本を残す計画に変更。伐採したソメイヨシノ39本についても、状態の良い幹を裁断して2018年1月に無償で希望者に提供し、3月には近くの条南中に2本を移植した。

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