第2部(3)奥会津の観光資源 絶やさず

理美容室に加え食堂も営む目黒。地元の高齢者が気軽に集えるよう、昭和の歌謡曲のレコードジャケットを飾る=金山町

◎理容師・目黒祐一(62)=金山町

 対岸の火事。そんな思いもあったが、現実は違った。

 福島県金山町の理容師目黒祐一(62)は、130キロ離れた東京電力福島第1原発事故の影響を思いも寄らぬ形で突き付けられた。

 2011年3月11日。東日本大震災の地震の強い揺れは奥会津の金山町にも及んだが、町内は被害がほとんどなかった。影響を受けたのは仲間と手掛けていた「姫ます寿司(ずし)」だ。

 ヒメマスは町内の沼沢湖で取れる。水面標高475メートルのカルデラ湖は、ヒメマスが生息する県内唯一の湖で知られていた。放流の歴史は100年に及ぶ。

 人口1900余。人口減と高齢化が著しい町を元気にしたいと08年、地元有志が企業組合「おく愛ズ」を設立し、理事長に就く。

 もてなし料理のヒメマスを使い、同年開発したのが姫ます寿司。名物として軌道に乗りつつあった時に震災と原発事故が起きた。販売先である観光客の来訪がぴたりとやんだ。

 「大型観光バスが1日に20台も訪れ、毎日100~200食作っていた。観光客が来ないので、どうしようもなかった」

 4カ月後の11年7月には新潟・福島豪雨が奥会津を襲う。JR只見線は甚大な被害を受け、今も一部区間が不通。只見川の氾濫で住宅や農業も被害を受けた。観光への影響は深刻で、姫ます寿司は生産を停止せざるを得なかった。

 原発事故に由来する放射性物質によるヒメマスへの影響は当時、実はあまり意識になかった。事故直後は奥会津で有志を募り、相馬市などでがれき撤去のボランティア活動に打ち込んでいたほどだ。

 「まさか奥会津でも影響を受けるとは」。気付かされたのは12年4月。沼沢湖のヒメマスから国の基準値超の放射性セシウムが検出され、県は漁の自粛を要請した。

 セシウムの影響の広がりは何となく感じていた。11年7月に県産肉牛が出荷を停止し、同8月には県産米からも検出された。ただヒメマスは新たな基準値(1キログラム当たり100ベクレル)の運用が12年4月に始まり、暫定基準値(1キログラム当たり500ベクレル)より厳しくなったことが背景にある。

 「基準値は超えたが暫定基準値以下だった。だが、原発事故前がどれぐらいかも分からず、自粛要請を受け入れるしかなかった」

 基準値を下回り、漁が解禁されたのは16年4月。漁協は禁漁中もふ化を絶やさず再開に備えた。4年ぶりの漁を町を挙げて祝った。

 一方、時の経過は別の課題を生んだ。刺し網漁師が高齢で廃業し、後継者は今もいない。それでも「地域活性化のために大事にしてきた観光資源を絶やすわけにはいかない」。

 姫ます寿司の生産は19年10月に再開した。原料は販売業者が沼沢湖の釣り客から買い付けたものを仕入れている。

 「以前と同じ量は作れないが、味や製法を常に見直しながら喜ばれるものにしたい」。照準は22年度の只見線の全線運転再開だ。
(敬称略)

復活した「姫ます寿司」。味や製法をリニューアルした商品を開発中だ
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