「原発漂流」脱炭素政策 識者インタビュー(上)原子力「見切り」にかじ

橘川武郎氏

 夏にも策定される政府の新たなエネルギー基本計画では、2050年の脱炭素社会に向けた電源構成が最大の焦点だ。二酸化炭素(CO2)を排出しない原子力と再生可能エネルギーはどう位置付けられるべきなのか。エネルギー政策に詳しい2人に聞いた。(「原発漂流」取材班)

国際大 大学院教授 橘川武郎氏

 50年にCO2などの排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を政府が打ち出し、原発推進派が浮かれているが、はしごを外されると思う。原発の新増設やリプレース(建て替え)を政府が一向に口にしないからだ。
 このまま廃炉が続けば50年の原発依存度は10%未満になる。政府が昨年末に出したグリーン成長戦略に盛り込んだ安全性が高い小型モジュール炉(SMR)などの開発も新増設がなければ意味がない。目くらましのような話だ。

 成長戦略では50年の電源構成の参考値として、CO2の貯留・回収機能付きの火力と原子力を合わせて3~4割とした。原子力単独でなく合計という「化粧」をせざるを得ないのは、原子力を見限る方向にかじを切ったとみるのが正解だ。
 東京電力ホールディングスと中部電力が共同出資する国内最大の火力発電会社JERA(ジェラ)が昨年10月、50年までにCO2を排出しない発電所に切り替えると表明した。菅義偉首相が50年のカーボンニュートラルを宣言する約2週間前のことで、実質ゼロに弾みがついたことは間違いない。火力がCO2を出さなくなると、原子力のメリットはほとんどない。副次電源の選択肢として残すとしても、将来的に原発ゼロを可能にする道筋は見えつつあると思う。
 それでも原子力を残そうとするのは政府・与党による立地自治体への配慮だろう。選挙の際には大きな票田になるため、現時点で脱原発を前面には出せない。この点は東電福島第1原発事故後も変わっていない。安倍政権以降、原子力の諸課題を先延ばしして触らない、あまり変えたくないという姿勢が定着した。「化粧」からも、その意思を感じる。

 原発事故後のエネルギー基本計画改定に、政府の委員として全て関わっているが、事故後初の改定だった第4次計画(14年)は、使用済み核燃料の直接処分の調査研究推進など核燃料サイクルに「中長期的な対応の柔軟性」を持たせた修正が唯一評価できる点だった。特に高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)の目的を核燃料の増殖でなく高レベル放射性廃棄物の減容・有害度低減と位置付けを変えたことが大きい。もんじゅは16年に廃止されたが、停滞していた廃棄物処分などのバックエンド対策に政府が重い腰を上げる契機となった。現行の第5次計画(18年)は、再生可能エネルギーの主力電源化を明記したことが評価点だ。
 国民の多くは原発の再稼働に消極的だが、即時廃止を求める人は少ない。原子力は当面必要だと理解しつつも、政府や事業者の進め方に不信感があると読み取れる。原発のリプレースやたまり続ける使用済み燃料、プルトニウム処理などの問題に真正面から向き合い、国民に理解を求める覚悟が必要だ。

[きっかわ・たけお]東大大学院博士課程単位取得退学。東京理科大大学院教授などを経て2020年から国際大大学院教授。専門はエネルギー産業論。国の総合資源エネルギー調査会委員。19年7月から仙台市ガス事業民営化推進委員会委員長も務める。69歳。和歌山県出身。

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原発漂流

 史上最悪級の原発事故の発生から2021年3月で丸10年。原子力事業や原発政策の何が変わり、何が変わらないのか。教訓は生かされているのか。改めて検証する。

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